映画

アメリカン・ドリーマー 理想の代償(ネタバレ)/廃馬とそれを撃つ側

移民の第2波 財政は破たん寸前、警察組織にまで汚職が蔓延り、治安が悪化。お金持ちたちは安全を求めて「郊外」へ脱出していった1981年のニューヨークが舞台。ロシア系ユダヤのジェームズ・グレイ監督の『裏切り者』も本作と同時代の作品ですよね。ニューヨ…

ナイトクローラー(ネタバレ)/夜に這い回る空腹のコヨーテ

盗人のわらしべ長者 ジェイク・ギレンホールが役作りの為に20ポンド減量して臨んだ*1本作、かなりの後味の悪さなんですが、面白かったです。 Imdbのトリビアにあるように、ルイス・ブルームを表象するイコンは「腹を空かせたコヨーテ」なんですね。ココに着…

パージ(ネタバレ)/建国の父に血を捧げよ

レーガノミクスが齎した世界? 8月1日から公開になる『パージ・アナーキー』の前作『パージ』を観て来ました。ホント久々の映画なので、ちょっとワクワクしましたが…。 1年に1晩だけ殺人を含むすべての犯罪が合法となるアメリカが舞台。で、こんなトンデモ…

アンダー・ザ・スキン 種の捕食(ネタバレ)/一皮むけば…

ハニートラップの代償 スカーレット・ヨハンソンがボディ・ダブルではなく*1、本物のヌードを披露した作品、レンタルで観ました。 スコットランドの荒涼とした風景の中、白いトランジットバンを運転しながら、獲物となる男を誘い、沼のような異空間に沈める…

毛皮のヴィーナス(ネタバレ)/本物の毛皮を「着た」アフロディーテ

汝の兆候を享楽せよ ロマン・ポランスキー監督初の非英語言語作品*1 レーオポルト・フォン・ザッハー=マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』をフェミニズムを導線に解体していくと、支配と被支配のパワーゲーム、マウント合戦の攻防がくっきりと浮かび上がる…

ベイマックス(ネタバレ)/愛のロケットパンチ

鈴と隈取り 『ぼくの地球を守って』の巨大ネコ「キャー」よろしく、兄タダシが残した介護ロボットベイマックスがヒロを抱きしめるCMから、ブラッド・バード監督の『アイアン・ジャイアント』辺りをイメージしてしまったんですが、そんなに間違ってなかった……

ゴーン・ガール(ネタバレ)/薪小屋のパンチとジュディ

That's the Marriage デヴィッド・フィンチャー監督の新作、観て来ました。面白かったです。 両親によって「アメージングエイミー(完璧な子供)」を演じ続けてきたエイミー(ロザムンド・パイク )が、真のベター・ハーフ(勿論、皮肉込みですが)、生涯に渡る共…

インターステラー(ネタバレ)/見上げてごらん夜の星を

引力からのエクソダス IMAXを含め、2回観て来ました。中々筆が進まなかったのは、終盤の展開━アメリア(アン・ハサウェイ )の御信託(信念と言った方がいいかも)通り、余剰次元で「愛=重力だけが時空を超える」現象シーンが未消化だったため。ボルヘスの「バ…

ザ・レイド(ネタバレ)/麻薬王の宮殿で天下一武闘会

ブルース・リー、ジャッキー・チェンの系譜? 公開時、話題になっていたアクション映画、レンタルで観ました。 麻薬王の所有する高層ビルに挑む警官と言ったら、カール・アーバン主演『ジャッジ・ドレッド 』と似たシチュエーションなんですが、コッチの方が…

プリズナーズ(ネタバレ)/アリアドネの赤いホイッスル

fatherの条件 『灼熱の魂』灼熱の魂(ネタバレ)/笑わない女が歌うのは… - 雲の上を真夜中が通るのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と、現時点での最高峰の撮影監督のひとり、ロジャー·ディーキンスがタッグを組んだ作品、レンタルで観ました。 ある日突然、愛する…

誰よりも狙われた男(ネタバレ)/世界の平和のために

the show must go on 冒頭、古くからの港湾都市ハンブルグにあるアルスター川の風景、決して水底を窺い知ることの出来ない濁った川面から、まるで生まれ落ちたかのように這い上がってきたムスリムの青年イッサ・カルポフ(グリゴリー・ドブリギン)。かたや…

アバウト・タイム ~愛おしい時間について~(ネタバレ)/非凡な僕の平凡な人生

時を駈ける父と息子 『フォー・ウェディング』『ブリジット・ジョーンズの日記』『ラブ・アクチュアリー』『パイレーツ・ロック』などの脚本(監督も兼任している作品もありますが)で知られるリチャード・カーティス。本作でどうやら引退されるようで、評判…

猿の惑星:新世紀 ライジング (ネタバレ)/屋根裏部屋の丸窓

Apes not kill apes 覚醒したシーザーの指揮下、人間社会からエクソダスしたサルたちが、ゴールデンゲートブリッジを渡った森で自治権を得る、いわば自由の為の革命だった『猿の惑星創世記(ジェネシス)』の爽快感から一変、本作では戦争がなぜ起きるのかを…

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(ネタバレ)/‘I am’から’We are’へ

君も一緒に踊ろう マーヴェル製作のビッグバシェット映画をトロマ出身のジェームズ・ガンが監督するらしい━目を疑うような第一報からずっと公開を楽しみにしていた作品です。デル・トロ監督とは違ったベクトルで「異形」の者を登場させ、捻ったギャグから繰…

グレート・ビューティー 追憶のローマ(ネタバレ)/どこにも辿りつけない電車

俗物の王 古代ローマの象徴、コロッセウムやサン・ピエトロ大聖堂のドームをはじめとする歴史的建造物や美術品の数々、その全てを理解する事は日本人には中々難しくても、綿々と続く人間の愚かしくも滑稽で、されど崇高で猥雑な堆積物の上に築かれた「永遠の…

三人のアンヌ(ネタバレ)/雨の日は傘をさして

ライトハウス(灯台)はいらない? 初のホン・サンス作品。レンタルで見ました。 監督がリスぺクトしている「エリック・ロメール」だぞ!っと言われりゃ、確かにそうだよなぁと妙に納得してしまうんですが、美しい海辺を舞台装置に、男女の機微やすれ違いを描…

大いなる沈黙へ -グランド・シャトルーズ修道院(ネタバレ)/沈黙の音を聞け

唯、十字架だけ 撮影許可が下りるまでに16年を費やしたドキュメンタリー。 戒律の厳しい修道院内が見られる機会はそうないぞ!とばかり、俗な好奇心を押さえられずに観て来ました。 まず、目を引くのは自然光のみで撮影された映像の美しさ。質素な室内に流れ…

思い出のマーニー(ネタバレ)/白鳥は哀しからずや空の青

青い二重窓 予告トレーラーにあった金髪碧眼の少女との百合百合しい接触を、ローティーンの御嬢さん方に囲まれて中年夫婦が食い入るように大画面を見つめる画を想像しては、「これはないな」と観ないで済ますつもりだったんですが(笑)、「ジブリ解散か?」の…

新しき世界(ネタバレ)/最上の国産牛

金属バットと包丁 BL好きのお姉さまたちから熱狂的支持を得ていた本作、レンタルで見ました。 ゴールド・ムーンの実質No.2 チョン・チョン(ファン・ジョンミン )と イ・ジャソン (イ・ジョンジェ)は出来の悪いお兄ちゃんと優等生の弟のような関係で、こ…

GODZILLA ゴジラ 2014(ネタバレ)/形見の時計

King of Monsters Saved the City ゴジラシリーズは、1954年版『ゴジラ』を筆頭に子供の頃から何本か見ていますが、細部に至っては全く記憶に残っておらず、モスラやキングギドラあたりなら区別はついても他の怪獣たちはさっぱり分からない、完全なビギナー…

her 世界でひとつの彼女(ネタバレ)/胸ポケットの安全ピン

ミスハダリ―、あるいは素子さま 映画観終わって、ふと頭に浮かんだのがヴィリエ・ド・リラダンのSF小説「未来のイヴ」。1920年にカレル・チャペックの戯曲『R.U.R.』で生まれた「ロボット」という言葉よりも遥か前、1886年にリラダンによって「アンドロイド…

グランド・ブダペスト・ホテル(ネタバレ)/鍵の秘密結社

アスペクト比━フレームの中の箱庭世界 エンディング・クレジットに登場する「シュテファン・ツヴァイク」については『グランド・ブダペスト・ホテル』とツヴァイク - 映画評論家町山智浩アメリカ日記に詳しいので割愛します。ココ以外に「ハプスブルグ神話」…

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(ネタバレ)/忘れ去られるために、あの場所に還る

The Incredible Journey 三匹荒野を行く ホメロス作と言われている古代ギリシヤの長編叙事詩『オデュッセイア』の壮大なパロディ、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』の名を持つ*1茶トラのネコちゃんに導かれ、売れないフォークシンガー、ルーウィン・デ…

ブルージャスミン(ネタバレ)/片手にバーキン、唇にトランキライザー

宙を見上げても、月はもう見えない ニューヨーク(東)での豪奢な生活から一変、家族も財産も失った女が、たった一人の身内を頼りに、妹の住むサンフランシスコ(西)で新生活を始めます。ジャスミン(ケイト・ブランシェット )と過去と現在(東と西)をシームレ…

8月の家族たち(ネタバレ)/野生玉ねぎを探しに

■熱帯産のインコでさえ死んでしまう灼熱地獄ネイティヴ・アメリカン(シャイアン族)の家政婦ジョナ(ミスティ・アッパム)を雇い父ベバリー( サム・シェパード )が失踪。これを機に娘たち3人が久々とオクラホマの実家に集結。バイオレット(メリル・スト…

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(ネタバレ)/一枚の紙が“時の人”を作る

ピックアップトラックと空気圧縮機で故郷に錦 路肩に雪の残る寒々しい風景の中、片脚を不自由そうにしながら画面奥から手前に向かって道路を歩いてる一人の老人。やがてパトカーから降りてきた警官に“どちらまで“と職務質問を受ける羽目に。ウディ・グラント…

ウルフ・オブ・ウォールストリート(ネタバレ)/このペンを私に売って見せてくれ

需要と供給 『ギャング・オブ・ニューヨーク 』に始まり、『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッター アイランド』と、レオナルド・ディカプリオ と組んだ作品のことごとくに乗れなかった上に『ヒューゴの不思議な発明』が映画史的には特別な作品であ…

スノーピアサー(ネタバレ)/見えない扉の向こうにオリーブの枝はあるか

■前進あるのみ 氷に閉ざされた死の世界で、人類最後の生き残りを乗せた『スノーピアサー』に搭載されているエンジン(どうやら永久機関のようですが)。その余剰エネルギーが住民の生活を支えるエネルギー源になっているようで、列車が止まればたちまちエネ…

アメリカン・ハッスル(ネタバレ)/虚実の狭間に咲くアメリカの夢

live and let die 生き延びるためのサヴァイバル 1970年代に実際に起きた「アブスキャム事件」*1(コードネームは架空の社名と 詐欺(scam)を組み合わせたもの) *2を基に、FBIのリッチ―捜査官(ブラッドリー・クーパー )のおとり捜査に嵌った、ビジネス(詐…

オンリー・ゴッド(ネタバレ)/カラオケ好きな神さま

「カチン」の剣舞、カラオケのメランコリック 『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフンが再びライアン・ゴズリングと組んだ新作を観て来ました。これは中々の珍品。 あんたはキューブリックかい!と言いたくなるほど、シンメトリックな構図*1の他、…