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ペトラ・フォン・カントの苦い涙(ネタバレ)/


■モードな世界

ペドロ・アルモドバルがリスペクトしていることもあって、ずっと気になっていたライナー・ヴェルナー・ファスビンダー作品をシネフィル・イマジカの放送で初めて観ました。
ファストファッションが市場を席捲している今の日本の感覚から見ると、とってもモードな作品。主人公のペトラ・フォン・カント(マルギット・カルステンセン)をはじめとする女優陣(女しか登場しないんですけどね)のファッションには目を奪われました。ぺトラがその役得を生かして(?)めまぐるしく衣装チェンジするんですね。オートクチュールっぽい豪華な衣装は見てるだけならいいけど、あれを着て動き回るのはちょっと大変。中でもドレープの裾を絞ったドレス姿は、見るからに歩きにくそう…。男性からの「支配」を嫌い、自由で独立した「個」を求めていたぺトラの、貧しい生まれで野心家の女ハンナ・シグラに惹かれ、彼女を「支配」できない飢餓感から更に妄執を重ねますます身動き取れなくなってしまう「不自由さ」を上手く現していると思います。
ぺトラを虜にするハンナ・シグラは、ポッコリお腹と丸っこい体型をしていて、どう見てもモデル体型じゃない(笑)。しかし、肉体のドッシリ感が肉の重みで心だけを浮遊させることが出来ないアンカー(錘)になっていてるんですね。愛人としてぺトラに飼われながら、同時に男も愛せる、一種のファムファタール(魔性の女)なんだけど、強かです。やっぱ、強度のある身体性を持った悪女は良い!男性には、その手で触れたら壊れてしまいそうな脆さがある女性がいいんでしょうけど…。
終盤、いとこの男爵夫人がぺトラの誕生日祝いにプレゼントした大きなお人形、ポッコリお腹から察しても、ぺトラの下を去ったハンナの代用品ですよね?彼女を紹介したのも男爵夫人だったし…ということはぺトラのセクシュアルを理解していたんでしょうか。。
もう一人の登場人物、ぺトラに奴隷のように扱われている秘書ヘルマン。彼女はサイレント時代の女優みたいなクラシカルなヘアースタイルに、喪服みたいな黒いドレス姿でした。一言も口を聞かず影のようにぺトラによりそう黒子。ぺトラを愛するが故に、この境遇にも耐え続けていた女。彼女は声を奪われた人ですけど、タイプライターが彼女の声になっていたんですね。室内に響き渡るタイプライターの音は、孤独な女の叫び声のように悲しかった。ラストは思いっきりスカッとしましたが。。

■ミダス王とバッカス

ファスビンダー自作の舞台劇を映画化した密室劇で、カメラは室内から一歩も外に出ません。外界と繋がっているのは電話だけの閉塞した空間で、愛という名の支配と抑圧の心理戦にさらなる負荷がかかる。気になるのは、というか嫌でも目に入ってしまうのが、壁一面に描かれているプッサン作「ミダス王とバッカス」。オウィディウスの「転身物語」に登場するお話ですが、ミダス王の愚かな選択、触れるものすべてが黄金に変わるようバッカスディオニュソス)に願ったがために、食べ物も飲み物すらも口にできない−飢えと渇きに苦しんだミダスは、この贈り物こそが破滅のもとであることを悟り、バッコスに自らの過ちを詫びて元に戻してもらった逸話は、本作とどうかかわっているのでしょうか?ミダス王はぺトラですよね。ハンナを独占できない、支配したいのにそうはならない執着に苦しみ抜いていたのは彼女でしたもの。そうなると、ミダス王の愚かな選択を予見し、黄金の儚い価値を彼に説いて聞かせたバッコス(ディオニュソス)が秘書のヘルマンということになるんでしょうかねー…イマイチ、すっきりしないなぁ。。

http://art.pro.tok2.com/P/Poussin/z009.htm