ベルヴィルランデブー(ネタバレ)/スクリーンの帆を揚げて

シルヴァン・ショメ監督の初長編アニメ。
イリュージョニスト(ネタバレ)/やはり野に置け、うさぎちゃん - 雲の上を真夜中が通るが面白かったので、こちらも観てみることに。。両親を亡くした少年と、彼のたった一人の身内であるおばあちゃん。孤独で内向的な少年を何とか励まそうと、おばあちゃんは最初に子犬をプレゼントします。犬は少年にとって永遠の友達ですもの。次に、少年が秘密にしていたスクラップブックに気付いたおばあちゃんは、三輪車を贈ります。この二つの贈り物が、彼のその後の人生を決定付けるんですよね。祖母と孫、犬一匹の自然に囲まれたささやかな住まいは、少年の成長と共に開発の波に飲まれ、急速に市街化してしまう。線路に追いやられねじ曲がったようになってしまったお家なのに、このふたりの絆はとても強く、相変わらず内向的だけど、自転車レース(ツール・ド・フランス)への夢に向かって、コツコツと練習を重ねてる心優しい青年へと成長します。アスリートらしい引き締まった筋肉(ふくらはぎの筋肉が桃みたいに割れてるんです)、贅肉が一切ない細い腰回りと、極端にディフォルメされた身体に、尖がった鼻と爬虫類を思わせる大きな目とこっちも記号化が進んだ顔がちょこんと乗っかってる、とても不思議な造形なんですが、口元に浮かぶ優しい笑みとまつ毛の繊細な曲線だけで、会話などなくてもこのふたりがどれだけ幸福であるかがしっかりと伝わってきます。DIY精神に富むおばあちゃんは、練習後のマッサージ用機器も手作りしてます!それが本当に気持ちよさそうなんですよね。。
レース中に誘拐された孫を取り戻すべく、舞台はアメリカ(ニューヨーク)を思わせる摩天楼の大都会━ベルヴィルの街へと移動(肥満体の自由の女神もある)、偶然知り合ったおばあちゃん三姉妹と協力して悪をやっつける活劇へと進展。ダイナーやハンバーガー、高脂肪率の住民にうすのろのボーイスカウトの少年って、えげつないくらいのアメリカ批判ですが(笑)。三姉妹の住まい編あたりからまったりテンポに…。おばあちゃんの生態観測しているみたい。カエル捕獲に手りゅう弾を使用するあたり、この三姉妹はレジスタンスの生き残りなんでしょうか。ゴキブリが登場したり、カエル料理のフルコースが延々続いたりで、生理的にちょっときつい場面も。。料理される運命から幸運にも逃れられたカエルをこっそり逃がした後に、列車に惹かれてしまう描写とか、かなり毒を含んでますね。犬の描写も結構、容赦ない。かわいい子犬が超肥満犬になってしまって、腰回りの太さと脚の細さが釣り合わない上に、ぜいぜい言いながら階段登ったりするものだから、ちょっと心配になりました。窓ガラスに付いた雨の水滴が犬に映り込んでいる所なんか、一瞬何かの病気に罹ってて大汗かいてるの?と思ったくらい。この犬が観る夢のシークエンスが良いですね。殆ど色のない世界に、犬の大好きな列車が登場する静謐な時空間は、大好き!です。
悪党一味をやっつけたおばあちゃんは、孫が漕ぐスクリーンの帆を揚げた船に乗って、この街を後にします。石畳の道がいつしか緑豊かな草原へ…実写ならディゾルブで繋ぐようなオーバーラップでしょうけど、これはアニメでこそ可能な表現でとても印象深かったです。思い出の品に囲まれた我が家で、おばあちゃんの声に答える自転車好きの青年は、頭も薄くなった初老の男へと変わり、おばあちゃんは既にこの世にはいない−時間を圧縮して一瞬で魅せる手法の鮮やかさには脱帽です。
冒頭、天才ギタリストのジャンゴ・ラインハルトやフレッドアステアのパロディがとても楽しいショーのシークエンスで、ジョセフィン・ベイカーをモデルにしたダンサーが登場してました。ちょっと古いものしか見つからなかったんですが、作品中のイメージに一番近そうなので挙げておきます。