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ステップフォード・ワイフ(ネタバレ)/balance of power

http://www.youtube.com/watch?v=B3HASgMS7w0&feature=related
公開時、あまり評判の良くなかった作品です。私は結構好きなんですけどね。wiki情報ではジョーン&ジョン・キューザック姉弟がキャスティングされていたのに、マシュー・ブロデリックベット・ミドラーに差し替えられた辺りから色々ギクシャクしたみたいです。その後、テスト試写の不評から、脚本が変更、追加撮影となったとの事。
キャサリン・ロス主演の『ステップフォードの妻たち』の1975版は未見なので比較しようがないのですけど、シノプシスを読んだ印象では、60〜70年代のヒッピー文化の洗礼を受けた世代と、旧態然とした伝統的価値を死守しようとする閉鎖的共同体という対立軸があるみたいですね。本作もフェミニズム視点を保持しているには違いないんですが、1975年当時より中産階級の保守化が進んだ現状を、ブラックユーモアで抉る快感が終盤から失速してしまったのは否めないです。
1975年当時とは違って、女性の社会進出は当たり前。苛烈な競争社会で生き残っていくには、男以上に男らしく(笑)振る舞って来た女性たちに抑圧されている新保守層の夫たち━彼らの職業はIT関連事業やメディア関係で、いわゆるオタクがそのまま社会人になり、時勢に乗って財を築いたものの、伝統的保守層から見ればヒヨッコちゃん。人生経験も伝統に培われたソーシャルな人脈もないものだから、アイヴィーリーグの閉鎖的クラブの延長のような「ステップフォード男性協会」にすんなりと取り込まれてしまう。学生時代のホモソーシャルな枠組みの居心地良さが忘れられないのでしょうか。ステップフォードに来るまでは、妻によって去勢されたような男たちが、失われた男としての自信を回復するために、ヤリ手の妻たちを次々とロボット(しかもロボット化された妻たちは、胸が大きいってどういう事よ!)していく。かくして、社交クラブとロボット妻に守られ、嫌でも成熟を促される軋轢や対立から遮断された「理想郷」=ステップフォードよ、永遠なれ!の筈だったんですが…。
敏腕プロデューサー、ジョアンナ(ニコールキッドマン)は、視聴率の為なら手段を選ばない、強引なやり口が仇となり、担当した番組内で起きた事件をきっかけに干されてしまう。失意の彼女を見舞う夫ウォルター(マシュー・ブロデリック)のプレゼントは「象のぬいぐるみ」でした。象は共和党の伝統的マスコット(民主党はロバ)です。人種的マイノリティや同性愛者など、差別を受けてきた人たちを解放する公民権運動などを経て、60〜70年代はアメリカが最もリベラルだった時。この時代に伝統的な倫理の崩壊や福祉政策費の増加が財政を圧迫する事態となり、その反動として「モラルマジョリティ」を標榜する保守連合が誕生。宗教右派からネオコンまで取り込んだ勢力は、ロナルド・レーガンをホワイトハウスに送り込むことに成功。こうして行き過ぎたリベラルの時代は終わりをつげ、アメリカの政治は保守化していきました。家族間の繋がりや価値を重要としたのは、移民(マイノリティ)の支持者が多かった民主党の方だったんです。それが、伝統的倫理観を脅かされていると感じた保守層を取りまとめる御旗に取って代わられ、民主党の方は財政の健全化の為に、より現実的な政策を受け入れざるをえなくなる。単純化しすぎますけど、80年代以降のアメリカは、共和党、民主党、それぞれが得意とする政策を、一部交換してしまったような状況が生まれたんじゃないかと思っています。本作、一応フェミニズムっぽい皮を被ってますけど、中身はなかなかどうして、政治的風刺が多いですよね。TVプロデューサーだったジョアンナの番組では“balance of power ”と叫ばれ(←これも政治用語ですよね)、明らかにユダヤ系だと分かるベット・ミドラーが、キリスト教の信仰と保守の価値観に染まり(伝統的に民主党支持者が多いユダヤ系が対イスラエル政策をめぐって、一時期、共和党に流れた時期があったそう)、ゲイ役のロジャーバートが共和党の上院議員に立候補するといった奇妙なねじれが生じる。ステップフォードの黒幕であったG・クローズが主催するお茶会(本当にティー・パーティをやってるんです)では、歴代の保守系大統領が話題になり、何よりも彼らが住むステップフォードは、周りを高い塀で囲み、門番を置いて出入りする人間をチェックし、不審者を通さない「ゲーテッドコミュニティ」にあります(しかもコネチカット州)。政治風刺は結構、効いてると思うのですが…。
ロボットにされるのは嫌ですけど(キャッシュディスペンサーになってしまった奥さんもいました)あのお屋敷群は、ため息が出そうなくらいステキでした。あんなところで暮らしてみたいぞ!でも、お手伝いさんが必要ですよね、あんな部屋数、全て掃除してきれいに保っておかなきゃならなくなったら大変!掃除の事考えたら、今のウサギ小屋で幸せなのかも…。ニコールキッドマンの美しさは、この作品がピークじゃないかと思っています。パステルカラーのドレスを纏ったブロンドのキッドマンは、お人形のようにきれいでした。

ステップフォードの妻たち(1975)』は↓
http://www.youtube.com/watch?v=4zUWOeNfa6Y