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アルゴ(ネタバレ)/さあ、帰ろう、あなたを待つ人の下へ


■ケンタッキーと米国製の銃
冒頭、“事実に基づく物語“とテロップにある通り、1979年11月4日に起きたイラン人学生がテヘラン米大使館を占拠、館員を人質にした米大使館占拠事件を基にした物語=作り話(虚構)です!と予めエクスキューズがあるわけですから、3分で分かるイラン革命(笑)のストーリーボード(絵コンテ)+当時のニュースフィルムから抜け落ちている諸々に引っかかりを感じつつも、娯楽映画として楽しむべき作品と割り切って観ました。だって、石油に関して全く触れてないんですもの…。
粒子の粗い映像の肌理は、当時のニュースフィルムのイメージからの借用を超えて、70年代を再現する手法としてすっかり定着した感があります。撮影監督はロドリゴ・プリエト。大使館占拠までの息もつかせぬ展開は本作の白眉でしょう。革命に揺れるテヘラン市内で、ホメイニ師のポスターとケンタッキーが共存する「日常」、家庭という奥所に閉じ込められていた女性達はスカーフを被り革命政府に加わり、一方ではケンタッキーを頬張る女性達もいる。CIAの支援を得てクーデターによって権力を奪取したパーレビ二世の親米政権は、ケンタッキーやハリウッドの娯楽映画(に代表されるような欧米型の消費社会)をイランに齎したんですね。イランの文化省の役人も、革命以前はポルノ映画の上映すらあったと話してました。
カナダ大使私邸に匿われたアメリカ人を救出する作戦は、当時大ヒットした「スターウォーズ」そっくりのSF映画製作をでっち上げ、映画関係者と偽装して大使館員をイラン国内から脱出させ、彼らの帰りを待ち望んでいる家族の元に無事に戻す荒唐無稽な計画で、こんな馬鹿げたプランが成功した最大の理由は、ハリウッド映画が持つイメージの浸透力が絶大だったからに他ならないと思うんです。外国語教師より、食料援助のための調査団よりも映画関係者を偽装する方が遥かに現実的━革命による外国語学校の閉鎖や、冬季での作戦だからという理由も重なっての事でしょうけど、ハリウッド映画がアメリカの有力な輸出産業である事を改めて思い出しました。
冒頭の3分で分かるイスラム革命のストーリーボードと終盤空港で登場する偽映画の絵コンテ、革命政府軍の声明文と偽映画の台本読み合わせの対比、プロデューサー、レスター・シーゲル(アラン・アーキン)が革命軍の公開処刑を“プロモーション”と辛らつに一刀両断したように非現実な映画(嘘)と現実を対置し、どちらも「嘘」の多さではそう差がない事を示しているんだと思います。でもね、ココ、微妙な部分含んでると思うんですよね…。ラストでジミー・カーター元大統領のスピーチが流れるし(何せ今年は大統領選があります。丁度、今日オバマ氏の再選が決定しました)。こうやって映画を通して現実の政治なり歴史なりに思いを巡らせるのは結構好きなんですが(笑)、ブログに面々と書き連ねるのはちょっと苦手なので(読む方も相当鬱陶しいと思いますし)、そこに触れないわけにはいかない場合だけに限定しておきます。興味のある方はイラン・イスラーム革命と、その後のイラン・イラク戦争だけでもおさらいしておくと良いかも…。カナダ大使私邸のお手伝いさんが、その後どういう運命を辿るのか…この作品では分からない背景が見えてきますから。
嘘(虚構)と現実に関して、もう一か所言及しておきます。終盤のイラン国内とCIAとハリウッド、三カ所でのクロスカッティングのシークエンス。トニー・メンデス(ベン・アフレック)の計画がとん挫しそうになったのを救ったのが彼の上司。大統領の首席補佐官の子供が通う学校関係者だと「嘘」をついて接触します。ぺルシア語が堪能な大使館員は、その能力を封印し、たどたどしいペルシア語で(カナダの映画関係者が流暢なペルシア語を操れるわけがないですから)偽りの映画関係者を演じた機転が、空港で足止めされた一行を救います。レスター・シーゲル(アラン・アーキンジョン・チェンバースジョン・グッドマン)のコンビは、撮影中の現場でイラン空港と同じように足止めを食らいますが、レスター・シーゲルお得意のハッタリで強引に通過する。閉塞した状況を打ち破るのがイレギュラーな嘘なんです。嘘とハッタリが常套手段のハリウッドでは、どこまでが嘘でどこからが真実なのか、よく分からないのが難点ですが(笑)。レスター・シーゲル(アラン・アーキンジョン・チェンバースジョン・グッドマン)のコンビが良いですね。原稿料を吊り上げたい脚本家との攻防戦も面白かったんですが、一番グッと来たのが、マルクス語録に”グルーチョか? ”とアラン・アーキンが答えるシーン。映画好きのツボをついてきますねぇ。。一つ分からなかったのが、老朽化したハリウッドサインの件。ちょっと調べてみたんですが、ハリウッドの75周年に合わせて1978年11月14日までに新サインに変わっているんです。ハリウッドのイコンとして広く知られている(当然修復時期も知られている)筈なのに、何故なんでしょうか。。