ぼんち(ネタバレ)/気根性のあるぼんちになってや、ぼんぼんで終ったらあかんで

少し前に日本映画専門チャンネルで観ました。これは文句なしに面白かったです。山崎豊子のベストセラーの映画化で、時代劇として様式化されたコードに忠実に描かれる封建社会ではなく、昭和初期、男女の価値観や家族制度も大きく様変わりをした激動の時代に焦点を合わせ、大阪船場の「格式」と「しきたり」の中で翻弄される「ぼんぼん」と、それぞれがクッキリとキャラ立ちしている女たちとが巻き起こす悲喜交々は、まるで外国映画を観るような新鮮さがありました。
山崎豊子著の「女系家族」は読んでいたので、船場の養子文化━奉公人の中から婿を取って後継者とし、お店(おたな)の暖簾を守っていく、商都大阪で生まれた、お店第一、暖簾第一の商家のしきたりにはなじみがあったんですけど、本作、とにかくテンポが良い。老舗の足袋問屋で、祖母(毛利菊枝)、母(山田五十鈴)もそれぞれ婿養子を迎えてる女系家族で、養子の父親は奥内の女たちに頭が上がらず、大店の御寮さんのまま、我儘し放題の女たちは格式としきたりを武器に、肥大化した自我を暴走させて次第にモンスターのようになっていきます。砂糖問屋から迎えた嫁弘子(中村玉緒さん、メチャかわいい)が妊娠したかどうか確かめる方法が、もう可笑しくって。。実家に戻って男の子を産んだ嫁を「しきたり」を盾に離縁させ、一人息子喜久治(市川雷蔵)の「外」の女に、念願の女児を生まそうと画策するんですが、これがぼんぼんの放蕩の始まりだったんですよね。祖母と母のモンスター組に「放蕩」で対抗する、喜久治の在り様は面白いです。
賢い(そろばん勘定の合う)放蕩のやり方を教えてくれるのも女ですし、戦局を心配して疎開させた河内長野の菩提寺では、喜久治そっちのけで、女たちは仲睦まじくお風呂でキャッキャとはしゃいでる。それぞれが既に人生設計を立てていて、そろばんを持った菩薩さまたちの姿を垣間見た喜久治は、憑き物が落ちたように放蕩からは足を洗います。“どうあがいても、女には勝てない”と悟りの境地に至ったんですよね(笑)。お妾さんが本宅にあいさつにゆくしきたりとか、もう抱腹絶倒です!
華やかな若尾文子さん、控えめで守ってやりたい女の筆頭の草笛光子さん、越路吹雪さんのモダン、京マチコさんの艶やかさ、日本映画の黄金期を彩る大女優さんばかりですが、そのおんな達に囲まれ、ぼんぼんからぼんちへなろうとした市川雷蔵さんの、一見、掴み所のないようにも見える浪速男の色香にはうっとり。。時代劇より嵌ってる所ありますよね。『雨月物語』『祇園囃子』『山椒大夫』等溝口健二作品でも組んでいた岡本健一氏、宮川一夫氏がそれぞれ、照明、撮影監督として参加しています。全盛期の日本映画って、こんなに贅沢だったんですね。。