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もうひとりのシェイクスピア(ネタバレ)/“奈落”から甦る言葉

the Virgin Queen(処女王)とも呼ばれ、生涯、独身を通したエリザベス一世の統治時代。スコットランド王ジェームス6世を後継者にと画策する、ウィリアム・ロバートセシル親子の宰相派と、テューダー朝の血を引くエリザベスの隠し子を擁立しようとするオックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア(リス・アイファンズ)らが繰り広げる権謀術数の世界に、鋭い観察眼で複雑な人間の内面を描く、最も優れた英文学作家ウィリアム・シェイクスピアは別人で、実は本当の作者がいたとする「シェイクスピア別人説」を上手く組み込んだ歴史ミステリーです。
政治的陰謀に絡め取られ、愛のない結婚(←現代から見ればそうなりますが、この時代に、愛のある結婚の方が珍しい)に、文学への道も閉ざされ、半ば死人のように生きていたエドワード・ド・ヴィアが、後にイギリスの桂冠詩人となるベン・ジョンソンと出会い、互いの才能を認めるが故に、ジョンソンの心に生じた闇(同じ作家としての嫉妬)からエドワードが企ては失敗に終わります。ですが、死期を悟ったエドワードから託された原稿は、劇場の「奈落」に隠したジョンソンによって守られるんですよね。火災で焼け落ちた灰の中から、フェニックスのように無傷のまま「甦る」原稿の数々。大衆を熱狂させる「言葉の力」は、陰謀に長けたセシル親子でさえ挫くことは出来ない。エドワードが書いた戯曲は、王室の後継者問題を一種のプロパガンダ的な手法で対抗しようとしたエドワードの思惑を超え、時代さえ超越しても尚、燦然と輝いている━と、エメリッヒらしくない(笑)作品になってます。絵画から借用したらしい画作り(人物の配置)や舞台と観客との差があまりない、臨場感のある劇場は良いですね。その反面、VFXは大味でした。この手のCGに飽きてるせいでもあるんですが…。
あと、そうですね、エドワードの中年期に登場する庭の迷路は、彼の深層心理としてもう少し活かされても良かったかなぁと。。ラビリンス(迷宮)で追ってくるのは外部の敵だけではない筈。幼少の頃から「言葉の天才」で、書かずにはいられない、そうしなければ狂ってしまいそうなエドワードの、イギリス最古で最も位の高い貴族の血(この血は出生の秘密にも関係してくる)によってそれを封じられてしまう苦悩は、別の名前で作品を発表し世に送り出すだけで鎮められる筈もなく、エリザベスに対する愛も勿論ですが、表向きは世捨て人を演じながら、政界の陰謀に身を投じることになっていった彼の心の疼きにもう少し迫れたんじゃないかと。。
冒頭とラストで現代のニューヨークで舞台に立つ「語り部」を置き、謎が解き明かされる快感を満たしながら芸術の永遠性まで射程に収める構成は上手いですね。雨傘一本で数百年の時間を一気に下る編集はかなり好みでした。。