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トライアングル(ネタバレ)/私の牢獄よ、どうか消えないで

■無限ループの地獄━シーシュポスの岩

スターチャンネルで観ました。思いがけない拾いモノをしたようで大満足です。
若い男女数名が、バカンスの最中に見舞われたアクシデントによって殺人鬼に襲われる━ホラー映画のお約束通り物語が進むのかと思ってたら、ちょっとびっくりしました。豪華客船に潜む殺人鬼の正体が明らかになるにつれ、この悪夢から抜け出そうと足掻く、息子を思う母の物語になってゆきます。設定がSF(タイムトラベルから量子力学まで)であれ、心理的不条理ものであれ、作品の構造上、何度も同じ場面を繰り返さなければならない為に、如何に飽きさせないかが脚本及び演出の見せ所だと思うんですが、本作、主人公ジェス(メリッサ・ジョージ)が同じ時空間で殺人犯と犠牲者として、同時に存在するのを視覚的に見せてしまうんですね。こんなにストレートに見せちゃって大丈夫なの?といぶかしく思ってたら、ちゃんと後半への布石になっていました。何気に芝刈りのおじさんが怖かったりして…。考えすぎでしたが(笑)。
洋上に浮かぶ無人の豪華客船という舞台装置が良いです。船内を探索するカメラはキューブリックの「シャイニング」を思い出しました。「シャイニング」では、雪に閉ざされたリゾートホテルの冬季管理人となったジャックの心の弱さがホテルに憑りつく悪霊を招いてしまいましたが、本作では、シングルマザーで自閉症の男の子がいる母親の深い悔悛の想いが、この無間地獄を作り出しているんじゃないでしょうか。
船を脱出した彼女が辿りついた我が家には、お絵かきをする息子を悪しざまに罵る醜い母親=本当の自分の姿をまざまざと見せつけられる羽目に。無限ループの「悪夢」は船上だけではないんですね。子供を虐待するもう一人の自分を殺し、車のトランクに押し込み、このループから脱出するために子供と一緒に車で逃げだそうとしますが、運命はフロントガラスに激突するカモメとなって、再び(というか、おびただしいカモメの死骸から考えて一体何回ループしているのかも定かではない)彼女を捉える。茫然としているジェスをヨットハーバーまで送る運転手は、地獄の番人プルートーン(ハデス)なのかな?

ジェス達が迷い込んだ異空間の客船の名は、作品中あからさまに説明されていたシーシュポスの父「アイオロス」です。シーシュポスに与えられた罰、タルタロスで、山頂まで押し上げる毎に転がり落ちる「シーシュポスの岩」*1の苦行は有名ですが、息子を救う為に、ジェスは何度も、何度もこの無限ループを経験しているんですよね。息子の物理的な死をどうしても避けたい母親の想いがこのループの発端「出発点」だと考えるとすっきりします。無限ループの閉じた回路の中で、その都度記憶をリセットして(息子の事を一旦は忘却して)この不条理なゲームに臨む。ゲームマスターはタクシーの運転手プルートーン(ハデス)で、彼の監視下、ジェスははたして息子を救う道を見出せるのか?と考えるのも面白いんですが、ココは彼女が抱く罪悪感がこの無間地獄を生み出し、彼女はこの地獄の中で息子を救える━偽りの希望をよすがに、息子の物理的な死を永遠に先送りしているんじゃなかろうかと(事故現場に集まった野次馬さんが“子供も助からないだろう“と話してた)。岩が転がり落ちずに無事山頂まで運び上げることに成功する瞬間=この運動の「終点」を目指すのではなく、良き母親として生まれ変わりたいというジェスの欲望が、終点のない世界、永遠に再生され続ける時空間、そこには地獄のような恐怖があっても母としてやり直すためにこのループを生み出したんだと考える方が私は面白いんです(笑)。
一つ分からなかったのが「三角形」の事。ヨットの名がトライアングルだったり、Tシャツのプリントだったりと、結構三角形のイメージが登場するんですが、これって何でしょうね。まさか三位一体ではないでしょうし(父と子、父性は完全に排除されてる)。三角形もある種の閉じた回路という事なんでしょうか。。