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ジャンゴ繋がれざる者(ネタバレ)/Freemanよ、馬に乗る者よ、我が王国(キングダム)にようこそ!

■I got a name

急速な工業化により産業資本社会が成熟し、イギリスをはじめとする欧州の工業製品から自国の競争力を優位に保つために「保護関税政策」を望む北部(自由州)と、集約的労働力を必要とするプランテーション経済社会で、ヨーロッパに綿花等を輸出していた為に「自由主義貿易政策」を支持した南部(奴隷州)。アメリカを二分した最大の内戦、南北戦争直前の1858年のテキサスから物語は始まり、やがて舞台はディープサウス(深南部)ミシシッピーへと移ります。タランティーノ監督が古典作品のみならず、膨大なエクスプロイテーション作品群を元手にパスティーシュする作風である事は広く知れ渡ってますし、何よりご本人がオマージュネタを嬉々としてインタビュー等で披露されてますよね。先行する映画作品との間テキスト性はスルーして(何せ、マカロニウエスタンを含む西部劇、ほとんど見てないんです。言及しようがない)、ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)とキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)のバディ・ムービーとして愉しみました。
大きな歯の模型(この模型、隠し金庫にもなってました。最も目立つ場所が、実は一番目立たたない、見る側の死角になる事を知ってるシュルツは頭が良いです)屋根に取り付けた馬車を操る、元歯科医は賞金稼ぎ。法と秩序の代理人としてお尋ね者を処刑します(本作では法廷での裁きは必要とされていない)。“賞金稼ぎは奴隷商人と同様、肉体の売買をする稼業”と話すシュルツの、生業に対するどこか冷めた視線は、飄々とした人物像の陰翳となってて良かったです。法と正義の代行者とは言っても、司法ではなく暴力によって遂行するやり口は、既にそれなりの「汚れ」はあるわけで、彼はそれを自覚してます。その上で、自分の手も確かに汚れてはいる、しかしお前よりはマシだ!と言わんばかりに、ムッシュ・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)から求められた握手を拒否し(ジャンゴとの間には、友情の証である握手は成立していた)銃をぶっ放す━万事、計画的に段取りしてきた彼が、犬をけしかけられて殺された逃亡奴隷のフラッシュバック、神経に触る「エリーゼの為に」と、じりじりと追いつめられ後先考えずに撃ってしまったのは、彼が心底、人種差別を唾棄すべき行為と思ってるからに他ならないわけで、それでも、妻を取り戻したいジャンゴの為にじっと耐えてきたものの、とうとう我慢の限界を超えてしまった男の唐突な反撃には、カタルシスを覚えました。よくぞやって下さいましたと拍手したいくらい。。
シュルツ亡き後の復讐戦、この時代にはなかったダイナマイトの使用(アルフレッド・ノーベルが商品化した珪藻土ダイナマイトの登場は1866年まで待たなければならない)は、歴史を現在から俯瞰する際にどうしても生まれてしまう諸々の齟齬をあっ気なくなぎ倒してしまいます。最後でもう一度、これは嘘の物語ですよと念押しされたみたいなものといった方が良いかも…。『イングロリアス・バスターズ』で、プロパガンダ映画を制作、上映するナチスを、可燃性フィルムを燃料とし、所有する映画館ごと消滅させたショシャナ。映画についての映画「メタ映画」の構造になっており、シネフィルの監督らしい視点には感心したものの、復讐の狂気(炎の中で笑い続ける女)に囚われた女のウエットな面倒くささの方が前面に感じられて、イマイチ乗り切れなかったんです。思いっきりおバカな方向に振り切れてればまだしも、ユダヤ人殲滅を目的としたホロコーストに、ナチスを暴力で殲滅しようとした復讐の連鎖は、やはり重かった。本作では、同じ復讐戦でもどこか乾いていて『イングロリアス・バスターズ』で感じたモヤモヤもダイナマイトと一緒に吹っ飛ばしてくれました。執事スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)とキャンディランドが爆破する瞬間、耳栓をするブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)の愛らしい仕草と、全てを終え、サングラスをかけ(←この時代にこんな形のサングラスがあったかどうかも疑わしい)にっこりほほ笑むジャンゴの姿は、映画『シャフト(Shaft)』に言及する監督発言にあるように、微妙にリンク*1しているんですよね。
青い従者の衣装を脱ぎ、握手を交わしシュルツの右腕(相棒)となったジャンゴが、終盤、賞金稼ぎの道中でシュルツから学んだ方法を踏襲していくのも良かったです。採掘場に送られる予定だった奴隷たちも解放しましたよね。バディ・ムービーだと感じるのはこういった所。執事スティーブンを殺す際に、再度衣装チェンジしてましたけど、あれは一体なんでしょうね。プランター(地主階級)の衣装にも似てますが、何かのオマージュでしょうか?。

■綿花王国とサザン・ベル
面白かったのが、南部プランテーションに関する事。白いスーツに白い髯、ケンタッキーのカーネル・サンダース*2みたいな、見た目は好好爺でも、裏の顔はkkkの首領だった*3ビッグ・ダディー(ドン・ジョンソン)のお屋敷には、サルオカゼモドキ(?)が着生したオークツリーがあり、Cotton Kingdom(綿花王国)のプランター(地主階級)の優雅なライフスタイルを垣間見ることが出来ます。同じく地主階級のムッシュ・キャンディが所有するお屋敷、ギリシャ風の「白い」円柱が美しい建築様式と「赤い」粘土質の土の対比は、白い綿花に飛び散る血、白馬の首にべったりと付いた血、白人のキャンディが流す血がメイド服の白い襟飾りを染め、シュルツに撃たれたキャンディの胸元の白い花が赤く染まる等、白は必ず血(赤)を伴うといった具合に何度も反復されてますよね。
キャンディの姉ララは南部淑女(サザン・ベル)のイメージをかなり皮肉ってると思います。南部式のもてなし(ホスピタリティ)“ドイツ人にはドイツ語を話せる女”は、たとえ黒人女をレイプしたとしても白人男性は強姦罪には問われない現実があってこそ成立するとんでもない悪弊ですが、その事に彼女は何の疑問も抱いてないんですよね。商取引を円滑に行う為に、シュルツに捧げられる生贄のヒルダ。彼女はその身支度まで手伝ってました。かつてイギリスで身分の壁によって疎外されてきた移民たちが、新天地アメリカで築いた富を背景に、私的財産(動産)である奴隷女を性の慰みものにする一方で、妻や娘を貞淑という名の理想像に祭り上げていったのが南部のジェントリーたちです(勿論、全ての地主階級がそうであったわけではないでしょうけど)。神格化された「サザン・ベル」の負のイメージにすっぽり収まるのがララなんですよ。本作のララの笑い方は、どっか壊れちゃった?と思えるくらい不気味でしたが、テーブルマナーにはやたらうるさい。キャンディがヒルダの背中の鞭の痕を客人の前で披露しようとした事に怒ったのは、それが貴族趣味にかぶれた南部の礼儀作法に反するからであって、彼女はヒルダの心情には一ミリたりとも寄り添ってはいないんです。
プランテーションの領主キャンディのフランスかぶれは可笑しかった。何故そうなっちゃうんでしょうか、ひょっとしたら、ご先祖様が準WAPS出身なのかも知れませんが…。彼が傾倒していた骨相学には、いかに黒人が劣等人種であるか、白人と同じ権利を有するにはふさわしくない人種かを科学的に証明したい欲望が渦巻いていて、心底ウンザリしましたが、言い換えれば、似非科学に縋るしか黒人が劣等人種と証明する方法がなかったわけで、将来、起きるかも知れない黒人側の反撃、抑圧する側が抱く恐怖(フォビア)から目を背ける為に、そもそも黒人にはその能力がないんだと安心できるだけの理由を必死に探していると言えなくもないです。キャンディは「金槌ち」に憑かれてます。黒人を虐げることで得られる白人としての自尊心と自我の充足はキャンディの幼児性を暴走させ、いつの日にか内部崩壊にいたる不安定さが透けて見えてしまうエキセントリックな性質を、レオナルド・ディカプリオが上手く掬い上げてると思います。
キャンディランドの真の領主、ラスボス(笑)の執事スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)。何代ものキャンディ家の当主に仕え「名誉白人」的な地位を得た人物で、同じ肌の色の黒人奴隷を恐怖によって管理する影の当主。オークツリー(地主階級)に着生するサルオカゼモドキが彼なんだと思います。実利主義や俗悪な商業主義が蔓延する北部で、搾取され、薄給しか与えられていない惨めな自由主義者たちの運命に比べれば、奴隷になっている黒人たちの運命の方が余程まし。黒人を厳しく監督するのは、大した能力も持たない彼らに、何とか食うに困らない環境と安全を保障してやっているくらいに考えてそう…。ドイツ人と共に現れた自由人(馬に乗る者)ジャンゴの姿には、長年、白人にこびへつらい王国を内部から徐々に乗っ取っていった彼の生涯を一瞬の内に無に帰するほどの破壊力があったと思います。キャンディが撃たれた際の動揺にも、スティーブンが築き上げた王国崩壊の予兆だけではなく、幼い頃からその成長を見守ってきた擬似的父親の愛情が垣間見られますよね。この人物をもっと掘り下げていくだけで映画一本できるくらい魅力的。白人VS黒人の二項対立の中にこういった複雑な人物を配置させる脚本は、トリッキーな時制や、だらだらと意味のない与太話に頼らなくても物語を紡いでゆける監督の成熟でもあるのでしょうね。そうそう、「クレオパトラクラブ」にいたメイド服を着た黒人奴隷が、ドレスの裾を広げてフィギュアっぽいポージングをしていたのは何なんでしょう…。

*1:http://www.imdb.com/title/tt1853728/trivia?ref_=tt_trv_trv ブルームヒルダの名はフォン・シャフト。ブラック・パワー・ムービーの代表作『黒いジャガー』(1971年 原題は『SHAFT』)の黒人探偵シャフトが由来で、サミュエル・L・ジャクソンは、2000年のリメイクに主演してる。ジョン・シャフトを演じたサミュエル・L・ジャクソンがサングラスをしている場面があるそう。タランティーノは“ジャンゴとブルームヒルダ夫婦はジョン・シャフトの偉大なご先祖さま“と話してる。

*2:黒人奴隷のソウルフードであるフライドチキンでファストフード店を興したサンダースは、南部出身でも大佐(the Coloner)でもなかった。映画や小説に登場する、馬とバーボンを愛し騎士道精神を遵奉する南部紳士のイメージを宣伝に利用したようですね

*3:wiki情報では、kkkは南北戦争終結後の1865年12月24日に南部連合の退役軍人、ネイサン・ベッドフォード・フォレストによってテネシー州プラスキで設立された組織に端を発するとの事