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オブリビオン(ネタバレ)/土に根をおろして、生きよう

2週間ぶりに劇場で観た作品です。7月20日公開の宮崎駿作『風立ちぬ』の予告編、本編終了後ではなく、直前に流すように変わったんですね。ツイッター等でつぶやかれてた、映画の余韻を奪う予告だと評判悪かったから改変されたのかな?。ツイッターの即時性はこういう時に有効です。地震なんでしょうか、大地が撓んでうねる面白い画や、宮崎作品でのお約束、帽子(および身につけるもの)が風で飛ばされる→解放の表現が何度も登場してます。予告編だけでお腹いっぱいになりそうなのに、この時期にロングバージョンの予告編を投入する東宝さん、力入ってますね。。

■誰かに見られてる―単眼と複眼
どこか懐かしい手触りのSFで、過去の名作が次々に思い出された作品です。キューブリックの「2001年宇宙の旅」は勿論の事、荒廃した地球の姿は「猿の惑星」、クローン(というかオリジナルとの差異がない完全コピーですよね)の栽培は「マトリックス」、使い捨てにされるコピーの悲哀は「月に囚われた男」等々。テーマとしては「惑星ソラリス」とピクサーの「ウォーリー」と類似性が高そうだと思いました。「ウォーリー」に登場する、植物が植えられた靴(文字通り大地に立つためのもの=脚なんです)は空き缶に変わっていますが…。5年の任期で派遣されているトム・クルーズ( ジャック・ハーパー)、アンドレア・ライズブロー (ヴィクトリア )のカップルの居住区は 地上数千メートルにあるスカイタワー。快適ではあるけれども、ひんやりとした、硬質で完全な調和の元に設計されたインテリアと、全面強化ガラス張りの空間の外に広がる大パノラマには、地球の唯一の衛星が壊されてしまった後の「月」の姿がありました。アメフトのスタジアムも、エンパイアステートビルも瓦礫と砂塵の中に埋もれてしまったデストピアの荒廃よりも、無残な残骸となりながらも、尚、天空に止まり続けている月の方が印象的でしたね。
高い塔=見張り台は地上を眺め見下ろすだけではなく、そのあまりの高さゆえに、地上から見返す眼差しをも遠ざけてしまうんですね。この高さなら、裸眼ではもう誰の目にも見えない。幽閉される牢獄と変わりないと思います。偽情報によってコントロールされていたジャックは、彼の記憶に登場する謎の女性オルガ・キュリレンコ( ジュリア)の登場、 モーガン・フリーマン (ビーチ)との接触、彼以外に完コピ(52号)が存在している等々から「真実」を知る事になるのですが、ジャックのパートナーだったヴィクトリアの方は、完全に覚醒していた(抹消されたはずの記憶を取り戻していた)んだと思います。その上で、虚空の牢獄に閉じ込められたままの5年間を何度でも何度でも繰り返すだけの、現在という点はあっても、5年後の未来は永遠にやってこない現実を選択してたんでしょうね。妻帯者のジャックを愛してしまった女の哀しさは、テットのメリッサ・レオ( サリー) との交信の度に繰り返される”最高のチーム“という言葉が清潔なコントロールルームに響く度に、大きな瞳には影が忍び寄り、ソフィスティケイトされた完璧な発音にはノイズのように憂いがつきまとうようになります。ウクライナ出身とは思えないエキゾチックな容姿と強い眼差しの持ち主オルガ・キュリレンコさんの鍛え上げられた上腕二頭筋にも見惚れましたが、ヴィクトリアを演じたアンドレア・ライズブロー さんが良い!です。マシュマロみたいにふわふわしてそうな身体を難しい中間色で包み、とても奇麗に着こなしてますよね。彼女は彼らを監視するサリー(テト)と、いつ記憶を取り戻す(ジャックの真の愛情の対象はジュリアだと知ってる)かもわからないジャック、二重に欺いて(裏切り続けて)いたわけで、アーサー・C・クラークの本「2001年 宇宙の旅」には、人工知能HALの生みの親である博士が、コンピューターがディスカバリー号の乗組員を次々に殺害=排除しようとしたのは、乗組員の与えられていた情報とHALにインプットされていた情報が違ったために、このミッションの真の目的を知らされていないクルーたちを欺く(裏切る)苦痛が、人間のように曖昧な情報処理が出来ないAIを一種のパラノイア状態に追いつめてしまったと分析する場面(地球上にあるHALの同機種SALにも同様の情報を与えた所、異常をきたした)を思い出しました。
ジャックがヴィクトリアに“君も一度、地上に降りてみないか“といったような事を語りかける場面が二度登場しますが、同じセリフなのにその状況はまるで違います。ジャックからプレセントされた花を規則違反だからと、一瞬の躊躇いもなく外に捨ててしまったヴィクトリアには、ジャックと一緒にこのガラスの塔を出る選択肢はなかったのでしょうか…。人工的に統一された居住区で唯一、二人の繋がりを証明する「写真=記憶」がどういった状況で撮られたかが分かる瞬間、彼女の優雅な立ち振る舞いの奥に隠されてた激情には、心が揺さぶられました。この記憶にはジャックの奥さんが介入できないんですよ、たとえそれが悲劇的な幕切れの前哨であったとしても…。ラストで、ジュリアの下に現れたのがジャック一人ではなく、テットが派遣したジャック&ヴィクトリアチーム(少なくとも50体以上のジャックとヴィクトリアがテット破壊後も地球上に残されている事になる)の中のどれか一つくらいは、「大地=地上」に降りる事を承認したヴィクトリアとジャックのカップルが成立してたらいいなぁと思ってます。というか、もし過去の記憶から完全に覚醒したその他大勢のジャックが清浄の地=ジュリアの下に殺到したらどうなるんでしょうか。
終盤、登場するアンドリュー・ワイエスの絵画「クリスティーナの世界*1
*2レジスタンス(ビーチたち)の精神的な支え、抵抗運動のイコンとなっていた事、ジャックが見つけた清浄の地(山間の湖畔にある小屋)、月の重力・潮汐力が狂ったために起きた天変地異によって壊滅状態になった地球に残されたサンクチュアリで、子育てしながら農作業に励むジュリア等、 単なる自然回帰というよりピューリタニズムとの親和性の高さの方が気になったんですが、ジャックと妻ジュリアが湖畔の小屋で逢うシークエンスには大音響でプロコルハルムの「A Whiter Shade of Pale(青い影)」が流れていたりで、やっぱり自由を希求したヒッピー文化を源泉としているんでしょうかねぇ。。
一つ気になったのが、人類撲滅に殺人マシーン「ドローン」の目。球形で愛らしい姿には似合わず、とっても恐ろしい兵器でした。中でもドローン視点でモニタリングされる時間が一番怖かったです。この兵器、単眼なんですよね。一方、人間の方は、レジスタンスの使う双眼鏡、ジャックの夢に登場する世界の天辺=エンパイア・ステート・ビルの展望台にある望遠鏡、どちらも複眼でした。ヒューマノイドとマシーンの差異を視覚器官(情報)の違いで表してるんだと思います。テットを支配するのはコンピュータープログラムなんでしょうけど(プログラムの音声が女性形なのは、もう鉄板ですね)そもそもこのコンピュータープログラムは視覚情報には疎いというか、終盤ジャックが持ち込んだコールドスリープの容器(これ、棺桶みたいに見えます。生命体ではないマシーンの世界に入るには、実体ではなくイメージとして「死」を通過しないといけないのでしょうか)の中身の確認もせずに易々とゲートを通してしまうおまぬけぶりはこの辺りに理由があるんじゃないかと妄想してます(笑)。ジャック達の“創造主“は他のSFものとは違って、なんか小者感がありまくりで、ヴィクトリアからの要請でドローンを増強するのも台所事情(エネルギー供給)が苦しいのか、全部で3機なんてケチらずに、ドンと大量投入しないのが不思議でした。テットの培養睡眠槽には無限とも思えるジャックのコピーがいたのに…。テットの建造物が逆三角形だったから、どうしても「3」に拘りたい製作者の意向かもしれませんが。

*1:http://en.wikipedia.org/wiki/Christina%27s_World

*2:The painting also features in the 2013 film Oblivion starring Tom Cruise. In the film, the painting has survived an apocalyptic war against extraterrestrial aliens and is admired by the characters portrayed by Tom Cruise and Olga Kurylenko.