パシフィック・リム(ネタバレ)/ドロシーの赤い靴を失くしたら、お家には戻れない

■ウサギを追っちゃだめ!
IMAX3Dで、吹き替えを選んで観てきました。パンフレットが完売してたのが残念でしたけど、声優陣の豪華さ、何より環太平洋防衛軍の指令センターの管制官テンドー・チョイ役が千葉繁さんだったので楽しめました。序盤からイェーガーがどんなにデカくて重いか、その雄姿を見栄えのするレイアウトでバンバン魅せてくれます。男の子には堪らないでしょうね。とにかく、大きく見せる事に相当拘りがあるみたいで、歴戦の古武士のごとく使い込まれ、所々塗装が禿げた各パーツは、ギレルモ・デル・トロ監督のロボットに対する並々ならぬ愛着を感じます。ロシアで製造された初期型のチェルノ・アルファのデザインが良いですね。重装甲のパワー型イェーガーで、デカい頭部が特徴。最古参のロボットの造形は、鉄人28号等の古いアニメからインスピレーションされたのでしょうか、なんだか可愛いです。男の子がロボット、それも人間が搭乗するタイプのロボットに惹かれるのは、直接的に身体自体を拡張させるイメージの快感があるんでしょう、やってることはどつきあいの肉弾戦ですが。。

怪獣映画、特撮モノ、ロボットアニメ作品、それぞれどの時代のものに馴染んできたかで萌えポイントは様々でしょうが、私は、やっぱり押井さんの『パトレイバー』を思い出しました。イェーガーを複数のヘリで運ぶ所(こんなに重いモノを空輸できるなんて、どんなヘリやねん)、素子さんのような前下がりのボブヘアーの菊地凛子( 森マコ)。彼女が傘をさして、チャーリー・ハナム( ローリー・ベケット )とイドリス・エルバ (スタッカー・ペントコスト)を待ってる画は良かったなぁ。。ローリーが働いてる防御壁の建設現場はめまいがしそうなくらい高所にあるかと思えば、イェーガーの水中ダイブ、空中戦からの落下等、高低差の際立つ演出もお気に入りです。

面白かったのがドリフトの設定。パートナー同士のシンクロは必ずしも血縁とは限らない上に、同じチームを組んでいてもそれぞれ性格や個性が違うんですね。これはチャーリー・デイ (ガイズラー博士)と バーン・ゴーマン (ゴッドリーブ博士)コンビにも言える事。潔癖症の数学者と怪獣オタクの生物学者がドリフトした後の変化をもっと見たかった。。ドリフトは個々の性格まで影響しないみたいなんですが、パートナーを失えば、心にぽっかり穴が開いたみたいに、脳もまたその「不在」の痛み、哀しみを感じてるんでしょうか。自分の記憶を全部パートナーに見られちゃうんでしょう?夫婦だと何かと揉めそうですが(笑)、ロシア組が姉さん女房なのはその辺りに理由があるのかしら。

ドリフト時に、パートナーの過去の記憶がどっと流れ込んでくる、自己を保つ為に記憶の深追いをするなと警告された時”ウサギを追っちゃだめ”と話してましたが、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場する、白ウサギを追いかけてウサギ穴に落ちた先にある別世界(異界)の事なんでしょうね。マコの幼少期、家族を怪獣に殺された忌まわしき記憶と、同時に復讐の誓いともなった赤い靴は『オズの魔法使い』からでしょうか。。『パンズ・ラビリンス』の終盤、別世界に越境した(元の世界に戻った)オフェリアが履いていたのも赤い靴でしたよね。太平洋の海底にある異次元の割れ目。怪獣市場のある香港のカオスと高層ビル群の対比。同じ時空間に接する異世界、現実と地続きの異界に関心のあるデル・トロならではの空間造形だと思います。異次元の割れ目に侵入する際、怪獣のDNAをパスポート代わりにしてましたけど、帰路ではDNAなしで通過できたのは、この異次元のゲートが生物系の性質を持っていて、塵やほこりを呑み込んだ喉が異物を体内から追い出す*1のと同じなんだととりあえず脳内補完して納得させてます(笑)。後、そうですね、香港に現れた怪獣が妊娠してたこと。吹き替えでは怪獣はクローンだと説明されてたんですが、クローンなのに生殖機能があるんでしょうか。。

*1:2回目を観ました。異次元のゲートの通過で怪獣のDNAが必要となるのは最初のゲート(海底から裂け目に飛び込んだ時)だけで、残りのゲートは、花弁が開くように次々に自動で開いていった。帰路のゲートに関して、仰角カットで裂け目のゲートが少し開いている画があったので、一度開いたゲートは完全に閉じるまでしばらく猶予があるという事なのかも。異次元の通路はやっぱり生態系に見えますね 8/25追加