スター・トレック イントゥ・ダークネス(ネタバレ)/宇宙、それは最後のフロンティア

■足蹴りで、難局を乗り切る?

熱狂的「トレッキー」の方から観れば、本作は面白いんだろうなぁと、うすぼんやりと考えながら観てました。最後まで退屈はしなかったんですが、デル・トロ監督の『パシフィック・リム』を観ちゃったせいでしょうかねぇ。。『パシフィック・リム』ではドラマパートはお話を見失わない限界までそぎ落とされて、怪獣VSロボットのガチバトルが中心。観客に見せたいものがはっきりして、迷いがないんです。怪獣は全く政治や倫理上の葛藤を纏わない完全悪ですし。

超人ジョン・ハリソン(カーン)がテロリストで、それを利用してクリンゴン帝国への先制攻撃の口実にしたい軍人の思惑があって…9.11以降の悪の枢軸国とアメリカの自由を守る戦いをトレースし、一応ポリティカルな体裁を保ってる脚本のドヤ顔がなんだかなぁ。。本作はカークとスポックの対立と友情が主軸。直感で行動し情を優先させるカークに対し、 倫理(法)を順守するスポック。そこにベネディクト・カンバーバッチ( ジョン・ハリソン)が加わり、カークは心情的にジョン・ハリソン(カーン)の方により近くなる。彼の囁きに心を掴まれ、そこに倫理優先では解決しない諸問題に対する揺らぎが生まれる。映画の面白さはここがピークでした。次々に生まれるアクシデントの対応に追われ、カークは地球に落下し続けるエンタープライズ号のクルーを救うために、自らワープ・コアの修理に向かい(←脚で蹴って、ずれを直してる)、被爆して死亡。カークの死に動揺したスポックが、いつもの冷静さを失いぶち切れしてカーンをフルボッコ。三者の間でそれぞれの立ち位置が入れ替わる脚本の妙はあっても、被爆して死んだカークがカーンの血液で甦るって(笑)、そんな万能薬があったらそれこそ戦争の原因になるんじゃないか、冷凍カプセルはまだ70余りあるし、残りをどうするんだろうなんて映画を観ている最中に気になってしまって…こんな事考えてしまうのは、映画に入り込めなかった証拠です。 カンバーバッチさまの低音の美声にはうっとり出来ましたが。。

SFテレビドラマ「スタートレックシリーズ」の中で最も人気のある『宇宙大作戦』がアメリカで制作、放映されたのが1966年から1969年にかけて。アメリカがリベラルを理想とした時代です。多文化主義を反映して、クルーは様々な人種で構成され、偏狭なナショナリズムに頼れない多民族国家アメリカの、普遍主義的な共同体の理念として「差別のない開かれた共同体」と、宇宙という「フロンティア」に移民の国アメリカの夢を追い求める遺伝子を託す。リベラルな時代だから可能だったゆるさやご都合主義も、9.11を経た現在では観る側が変容してしまっているので、TVシリーズへのリスペクトであるあの有名なフレーズ“宇宙、それは最後のフロンティア”に素直に感動できない複雑な心境でした。