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アメリカン・ハッスル(ネタバレ)/虚実の狭間に咲くアメリカの夢

live and let die 生き延びるためのサヴァイバル


1970年代に実際に起きた「アブスキャム事件」*1(コードネームは架空の社名と 詐欺(scam)を組み合わせたもの) *2を基に、FBIのリッチ―捜査官(ブラッドリー・クーパー )のおとり捜査に嵌った、ビジネス(詐欺)上のパートナーでもあり愛人関係でもあった詐欺師コンビ、アーヴィン( クリスチャン・ベイル)とシドニー(エイミー・アダムス)がリッチ―から持ち掛けられた司法取引によって、アラブのオイルマネーを餌に、汚職政治家を一網打尽にするコンゲームなんですが、一番騙されていたのが当のFBIだったと、中々シニカルな落ちになっている上に、ニュージャージー州カムデンの市長カーマイン( ジェレミー・レナー )が一度はアーヴィンたちの罠に嵌りそうになりながら毅然とそれを退ける、カジノを誘致して雇用を増やす、地元民の生活第一の政治家としての理想と信条がまぶしいくらいキラキラと描かれていて、彼を裏切る羽目になるアーヴィンの迷いや屈託が国家権力(FBI)と政治家を嵌めるコンゲームの爽快感に影を落とす、ほろ苦いペーソスも…。イタリア系で子沢山(カトリックですから)。妻も気の良い女性で、虚実入り混じる政治の世界でも、自分たちの夢を花開かせようとしている。アーヴィンの裏切りを知った際、階段ですし詰めになってるカーマインの子供たちと、涙でマスカラが溶けだした妻の泣き顔を観るのは、ちょっと辛かった。


アーヴィンはユダヤ系で、彼の回想シーンにあったように、小さなガラス店を営む父親の為に近所のガラスを割って歩く、幼少の頃から目先の効く少年で、貧しいものが生き残るための手段だったサヴァイバル術が、長じて詐欺行為に手を染めるようにまでになります。クリーニング店を経営しつつ、絵画詐欺を繰り返す。天才詐欺師というより小者感漂う、禿でメタボなおじさん。そこにヌードダンサーで生計を立てていたシドニーが加わり、貸付信用詐欺で荒稼ぎしていた所をリッチ―に目をつけられる。冒頭、薄くなった髪にズラを接着剤で止める涙ぐましいまでの努力、自身をかさ上げする「嘘」に執着しています。詐欺師(虚構)が更なる虚構(ズラ)をつける。しかもこのズラは詐欺行為とは何の関係もない、コンプレックスから生まれたものでしょう?ラストで詐欺師から足を洗ったはずなのに、まだカツラつけてましたもの。
苦労してセットした髪をリッチ―に滅茶苦茶にされて硬直し、心臓の持病があってゼイゼイしてたり、今まで築き上げてきたクリスチャン・ベイルのイメージを次々に壊しにかかる自虐があるから、カーマインとの友情の板挟みになる苦悩が沁みるんでしょうね。鮮やかな詐欺の手さばきを披露する詐欺師のお話で終わらない、コン・ゲームの切れ味より人情噺じゃないかと思える本作の旨みになってますよね。クリスチャン・ベイルの囁き声を魅力的だと思えましたのも今作が初めて。


詐欺師コンビの心が一つになるシークエンス、くるくる回るクリーニング店のコンベアの中心で抱き合う両者━デヴィッド・O・ラッセル監督は、カップルの成立時に彼らを取り巻く世界を回転させるのがお好きなようで、前作『世界にひとつのプレイブック』でもブラッドリー・クーパー&ジェニファー・ローレンスのカップル誕生の場面で文字通りカメラをぐるっと廻して見せた事があって、こんなベタな描写も今時珍しいとちょっと萎えたんですが、今回は趣向が凝らしてありました(また同じことやったらぶうぶう文句言ってた…笑)。デューク・ エリントンのレコード盤と同じく、ふたりだけの世界=宇宙は回るんです。
妻帯者のアーヴィンが、血の繋がりのない最愛の息子と引き離されるのが嫌で、妻との関係が醒めてても離婚できないその事実に深く傷ついたシドニーが、その痛みを糧に全力でリッチ―を落とそうとする、フェロモンが服を着て歩いているようなブラッドリー・クーパーが言い寄るんですもの、抗うなんてそりゃ無理だわ。。テーブルの上に腰掛け、少女みたいに脚をぶらぶらさせてるシドニーに向かって、鼻息荒く腰に手を伸ばす、何とも羨ましいポジションなんですが、彼女の心がアーヴィンにあるのか、リッチ―にあるのか判断できない揺らぎが生まれるんですね。ラブコメの王道ですが、ペラッペラの軽いキャラを演じていても、相手がブラッドリー・クーパーだけに、その説得力は半端ない。
リッチ―と籠った女子トイレの便座に座り雄たけびをあげる場面。ノーブラでセクシーなドレスを纏いイギリス訛りがある、アメリカ人のイギリスコンプレックスと下世話な下心を刺激するキャラを詐欺の為に演じつつも、コツンとした優等生の硬さがついて回るエイミー・アダムスがはじけた瞬間の爽快感は白眉でした。


デヴィッド・O・ラッセル作品なので、登場人物は奇人変人揃い。中でも ロザリン にはぶっ飛びました。情緒不安定でかなりのおバカ。エキセントリックで鬱陶しいのにどこか憎めない可愛い人妻を演じています。1990年生まれの弱冠23歳が、熟れきった女を堂々と再現してるんですよ。マニキュアのトップコートの香りと一緒、彼女自身が甘酸っぱい、ゴミのような匂いを放ってる女なんですよね(笑)。ジェニファー・ローレンスのポテンシャルは、未だ底が見えない。。
カーマインから贈られた電子レンジにアルミホイルを掛けたまま使用したり、日焼けライトでボヤ騒ぎを起こしたりといったコメディリリーフに加えて、一番面白かったのがマフィアの新BFに、アーヴィンの計画を漏らしてしまうシークエンス。おバカを装って口を滑べらした風に見せかけて、素早く計算して体制を立て直す、しかも自身の生存優先で(笑)*3。彼女が髪を振り乱して歌う「live and let die(『007 死ぬのは奴らだ』の主題歌)には彼女の生存本能が結晶化してるんでしょうね、何があっても私は生き残ってみせる!といった所でしょうか。


 

*1:「アブスキャム事件」の映画化は、ルイ・マル監督が『ブルース・ブラザーズ』の2人を主演に進めていたそうなんですが、ジョン・ベルーシの急逝で頓挫したようですね。http://www.imdb.com/title/tt1800241/trivia?ref_=tt_trv_trv

*2:http://en.wikipedia.org/wiki/Abscam The codename Abscam derived from a combination of "Abdul" and "scam."

*3:ロザリンが夫が詐欺師だと気付いたのがいつなのかが初見ではよく分からなかったんですが、マフィアのBFと二人っきりで会ってる時にはあらかた気づいてるんですよね。しかも“(アーヴィンに)あんまり手荒な事しないであげてね”とまでお願いしてた。ココは彼女の強かさに大笑いしました。女が腹をくくると恐ろしいもんです。2/8追加