読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ウルフ・オブ・ウォールストリート(ネタバレ)/このペンを私に売って見せてくれ

需要と供給

『ギャング・オブ・ニューヨーク 』に始まり、『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッター アイランド』と、レオナルド・ディカプリオ と組んだ作品のことごとくに乗れなかった上に『ヒューゴの不思議な発明』が映画史的には特別な作品であってもあんまりな物語に、さすがの御大も耄碌しちゃった?状態だったんですが、本作は久々に毒々しいキレッキレの仕上がりで、2000年以降のマーティン・スコセッシではマイベストになりそう。。御大のフィルモグラフィーの中では『グッドフェローズ』に一番近いかも。

OP、小人症の人をドルを書き込んだダーツの的に放り投げる、下品で下劣で下らない最低のいたずらを、都会の片隅にある秘密クラブででもやってるのならまだしも、白昼堂々、オフィスで行ってる。それを眺める社員を含めて異常なハイテンションで、何せビジネス絡みのお祝いは、裸のブラスバンドが奏でる「星条旗よ永遠なれ」が登場するんですもの、作品に込められた毒の向かう先は明確ですよね。
世界金融の中心地、ニューヨークのウォールストリートで株屋として人生をスタートさせたジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)に、ブローカーに必要なのはドラッグとマスターベーションだと、ドラッグとも無縁で堅実に家庭を築いていた男を強烈なカリスマ性で洗脳したマーク・ハンナ( マシュー・マコノヒー)。人生を左右するメンターとの最初の出会いで、すべてが決まっちゃったんですね。『ダラス・バイヤーズクラブ』で体重を激変させたマシュー・マコノヒーは、短い登場シーンながら鮮烈な印象を残し、薬でラリってるとはいえ奥さん同伴のパーティーでナオミ(マーゴット・ロビー)を一目見て“抜く”、必要とあらば金魚まで呑み込んで見せる ジョナ・ヒル や、ペラいくせにぬめっとした嫌らしさのあるスイス人銀行家をジャン・デュジャルダンが 、映画監督のロブ・ライナーがキレやすい会計士の父親をと、強烈な個性を放つ俳優たちがそれぞれの見せ場で黒々とした嗤いをさらっていく中で、ほぼ出ずっぱりのディカプリオが役者として一枚剥けた演技を魅せてくれます。金融の世界で繰り広げられる駆け引きの妙味が物語を走らせるのではなく、ベルフォートの詐欺の手口は至って平凡。集めに集めた金の処分に困り、マネーロンダリングする方法も、おっそろしく馬鹿げてます。狂ったように踊り続ける金の亡者たちがその空疎さと引き換えにまき散らしていくブラックな笑いが本作の面白さで、醜悪な場面になればなるほど、ディカプリオが発する熱量が増大し、テンションの高い芝居は、ジャック・ニコルソンに見えるてしまう所さえありました。


一番面白かったのが、カントリークラブのシークエンス。
WASPの牙城、高級カントリークラブのクラブハウス。荒稼ぎした金がこのクラブへの扉を開いてくれたものの、FBIの捜査の手が伸び、窮地に陥ります。特別なドラッグをバッチリきめこんでいた為に、彼の武器である「言葉」を封じられてしまうんですね。カントリークラブの正面玄関の車回しに止めたランボルギーニまで、わずか数メートルが辿りつけない。で、どうしたかというと、床を這い、文字通り階段を「転げ落ちる」。彼の転落はここから始まるんです。車に乗り込むまでの体を張ったスラップスティックなギャグが続き、やっとの思いで辿りついた自宅で、同じようにODでぶっ倒れてるジョナ・ヒルを蘇生させる時にTVに写ってるのが「ポパイ」のアニメだったのには大笑いしました。
ベルフォートが滔々と話術を披露し、社員を扇動するオフィスでの切り替えし。彼の背中越しに写る天井の低さと言い、金融世界で跋扈する野獣は、その桁外れの儲けとは裏腹にどこか窮屈そうで、狂騒の宴も、VFXを駆使したとことん作り物の画で固めてあります。一人の男の人生の浮き沈みを露悪的にカリカチュア*1しながら暴いてるのが、アメリカンドリームの幻影なんでしょうね。貪欲な資本主義の奴隷となった市民たちがせっせと欲望の泥濘に咲くあだ花に水をあげて育てている事は、ラストシークエンスのセミナーでも明らかじゃないかと…。ベルフォートの一挙手一投足を固唾をのんで見守る客たちと、差し出したペンを使い、お馴染みの営業トークを披露する、刑期を終えても最高に気分を高揚させてくれるドラッグ「金儲け」を忘れられない彼は、ブラック・マンデーで潰れた証券会社から場末の株屋で「ペニー株」*2から始めた時とちっとも変ってなさそうなんですもん。現状で満足できずに更に豊かになりたいと願う人がいる限り「需要」に見合った「供給」=ベルフォートのような詐欺師は途絶えることはないのでしょう。これがアメリカンドリームの正体なんだ!とスコセッシ御大の宣言だと受け取ってます。

*1:イタリアから豪華クルーザーでスイスに向かう際に遭遇した天啓(乗る筈だった飛行機が嵐で墜落するエピソード)まで紛い物っぽく見せてる。何せ画がペラッペラなんですもの、嫌味ですよね。ジョーダン氏の自伝『ウォール街狂乱日記』にはどう書かれているのか一番知りたい所です

*2:一ドルにも満たないジャンク株