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新しき世界(ネタバレ)/最上の国産牛

金属バットと包丁

BL好きのお姉さまたちから熱狂的支持を得ていた本作、レンタルで見ました。
ゴールド・ムーンの実質No.2 チョン・チョン(ファン・ジョンミン )と イ・ジャソン (イ・ジョンジェ)は出来の悪いお兄ちゃんと優等生の弟のような関係で、このふたりは「華僑」出身、同じ出自なんですね。血縁(の濃さ)が優先される韓国社会ではむしろマイノリティ。
“韓国産(国産)の牛肉が最上”なんだと、作品内で何度か触れられてましたが、これはやくざ組織ゴールド・ムーン*1が他勢力を吸収合併し巨大組織となった今日でも、その権力の至高の座は韓国の伝統的血脈=国産が最上というニュアンスを含んでの事なんでしょう。


華僑の出自を生かして、躍進目覚ましい上海との強いパイプを築いたチョン・チョン& イ・ジャソン 組には、その命の軽さを売り物に、血生臭い汚れ仕事を引き受けて「韓国国産組」に食い込んでいった過去がありました。これは、チョン・チョン& イ・ジャソン 組に便利使いされていた中国籍の朝鮮族(北朝鮮と中国北東部の国境付近に住んでる朝鮮族の事じゃないかと。脱北者は命がけで中国に渡っても、激しい差別を受けるのでしょう)との関係にも似ています。
イ・ジャソンは自身の出自を知る者をすべて排除し、流血で塗り固めた「新しき世界」を手に入れましたが、組織に残る「国産組」を排除するために、今後も命の値段がけた違いに安いマイノリティの血を求めていくのでしょうか、それとも警察と華僑、究極のマイノリティであった彼だからこそ、純血(血の近さ)を忠誠心の証とはしない、まさに「新しい」世界を作り上げるのか━正当な血統より、寧ろ傍流の方が何かと革新的、過激になるのは組織の常。長らく生きながらえてきた血脈には傍流さえ巧みに取り込んでさらに生きながらえようとする政治的感覚に秀でた人物を輩出しますから(本作ならNo.3、チャン・スギみたいな人物)「新しき世界」のその後がとっても気になりました。


エピローグで明かされる6年前の一場面。まだ駆け出しのチョン・チョンとイ・ジャソン が包丁持って、敵対するやくざの事務所(?)に殴り込みます。ソウル警察カン・ヒョンチョル課長( チェ・ミンシク )にスカウトされた、警官の制服姿が「初々しい」(この表現以外、思いつかない)イ・ジャソン の、まだ何ものにも染まっていない初心な相貌が、深い翳りを帯びて、徐々に変化していく様を時系列に沿って順に見せていくのではなく、生き残るためとはいえ彼がこんなにも遠くまで来てしまった、その現実を不可逆的にあぶり出し、決して後戻りできない瞬間を鮮烈に焼き付ける脚本の構成の上手さには唸りました。これはイ・ジャソンを「ブラザー」と呼びじゃれる、懐く(この表現以外思いつかない)チョン・チョンもそう。イ・ジャソンが裏切り者=潜入捜査官を命を賭して守る理由が、6年前のエピローグで情感豊かに明かされます。BL好きのお姉さまたちは多分ココに萌えるんじゃないかなぁー、私はアンテナがないのでよく分かってませんが…。
月面クレーターのようなチョン・チョンと並ぶと、ゆで卵みたいにつるんとしたイ・ジャソンの肌の美しさはひときわ際立ちますね。コ局長を始め、独特の顔を持つ役者さんが印象深い作品です。銃がほとんど登場しない(連絡係だった囲碁のお姉さんを銃で殺害したのは、苦しみを長引かせない為でしょうし)包丁と金属バットの様式美は、同じ韓国映画「悪いやつら」、ジョニー・トーの「エレクション 黒社会」もお馴染み。ハリウッドリメイクが決まってるそうで、「銃封じ」がどこまでできるか、そこに興味あります。

*1:チェ・ミンシク を買収しようとした時の小道具が「月餅」でした。何か関係あるのかしらん?