アバウト・タイム ~愛おしい時間について~(ネタバレ)/非凡な僕の平凡な人生

時を駈ける父と息子


『フォー・ウェディング』『ブリジット・ジョーンズの日記』『ラブ・アクチュアリー』『パイレーツ・ロック』などの脚本(監督も兼任している作品もありますが)で知られるリチャード・カーティス。本作でどうやら引退されるようで、評判の良さもあって、観て来ました。ラブコメ風の軽妙なノリから、最後に無理なくと父と息子の物語に収斂させる脚本の上手さは、手慣れているとはいえツボを外さない安定感バッチリの出来栄え。デートムービーにも最適じゃないかと思います。

一族の男子に継承される特殊能力━ガチのSFを期待するとがっかりしますけど、タイムトラベルの要素はほとんどマグガフィンと言ってもいいくらいで、SF的な設定の妙で魅せる作品ではないです。
過去のある地点(人生における分岐点となる出来事)に戻っては、少しづつ現在を改変している主人公 ティム( ドーナル・グリーソン)は、持って生まれた特別な能力で、世界の危機を救うわけでもなければ、時間を巡る哲学的思弁とも無関係、意中の女の子と仲良くなりたいなど、ごくごく平凡な動機からタイムトラベルを始めているんですね。巨万の富を得ることも、世界の歴史を変える事も可能なのに、ティムの欲望(タイムトラベルによって現在を改変する)は等身大の慎ましさとイギリス人らしいユーモアに満ちていて、適度に油抜きされて、好感度抜群です(笑)。
彼の欲望の変遷がやがて成長軌道とシンクロするようになり、父となり、我が子を想う親に立場になって初めて、自分もまた父から大きな愛情で見守られてきたことに気づく、いやらしいくらいバランス感覚に優れた作品だと思います。

気まぐれなコーンウォールのお天気に見舞られたガーデンウェディングの多幸感、レイチェル・マクアダムスが気の良いアメリカ女性を飛び切り可愛く演じていますし、ティムの父親を演じたビル・ナイは過去のフィルモグラフィーからは想像もつかない、家族と過ごす時間の為に50歳でリタイアした大学教授を淡々と枯れた味わいで魅せてくれます。タイムトラベルで妹を救おうと思い立ったものの、過去への旅が現在に及ぼす影響(大事に育ててきた娘が、タイムトラベルによって息子に変わってしまう)から断念したティムでしたけど、美しく成長した娘の愛らしさ(小学生くらい?)を見れば、そりゃ、お父さんだもの、無理ないよねー。妹も辛い過去を逃げずに真正面から立ち向かう事で生きる力を取り戻したようでしたし…。


編集者の妻メアリーが作家との面談に着ていくドレス選びに迷った挙句、最初に目を止めたドレスに辿りつくエピソードも、ティムのタイムトラベルと重ね合わせてあるんでしょうね。
メアリーが迷った数多くのドレスと同じ、人生の選択肢も無数にあるように一見、そのように見えてしまうんですが、実際に選択できるものは実はそう多くはない。ティムがメアリーと付き合いだした時も、あるいは娘を授かり深い愛情を抱くようになってからもそうだったように、彼自身が他の選択肢に価値を見いだせなくなってしまうんですよ、それによって失うものの大きさを家族を通して知ったからなんですよね。で、本作の旨みは、同じ能力を持つ父親も、家族を想いそのように選択してきたんだなぁ~と終盤で明らかになる所。日常に埋もれてしまう何気ない風景の数々(卓球や海岸の散歩)が、かけがえのない特別な時間として輝きだす頃にはウルッときました。
風変りなおじさんやティムの同僚のエピソードもエッジの効いたキレ味よりもほんわかとした優しさで満たされていて、口当たりの良さも作品の基調と合ってると思います。