ベイマックス(ネタバレ)/愛のロケットパンチ

鈴と隈取り

『ぼくの地球を守って』の巨大ネコ「キャー」よろしく、兄タダシが残した介護ロボットベイマックスがヒロを抱きしめるCMから、ブラッド・バード監督の『アイアン・ジャイアント』辺りをイメージしてしまったんですが、そんなに間違ってなかった…。天才的頭脳の持ち主ヒロが目指す道を見つけられずに「ロボットファイト」の刹那的空間で見せる捻じれた鬱屈、拝金主義と引き換えに手に入れたものによって破滅していく(ヒロ達に救われますが)クレイ社長等、いくらでも膨らませそうな枝葉を刈り込み、最愛の人を失う喪失を仲間と共有する事で乗り越えていく、とても気持ちの良い作品です。どうしようもないほどの悪人が登場しないんですね。

サンフランシスコと日本が融合した架空の都市、乾いた空気感の中にぬかるんだ路地裏が現れるシーンが好きです。ベイマックスを追うヒロの動きが生き生きとして見えるのは、この皮膚感覚に近い湿度も随分と貢献しているじゃないでしょうか。街の風景が書割ではなく、独自の相貌を纏い立ち現われる瞬間には、実写、アニメに関わらずゾクゾクします。
マーベルコミックスの初のディズニーアニメ化作品で、殆ど知られていない原作「ビッグ・ヒーロー・シックス」が選らばれたのは、原作の縛りが少ない分、よりファミリー向けにアレンジできる余地があるからかも。

理系のオタクたちで構成されるスーパーヒーローチームは人種も様々で、彼らが学ぶ大学はサンフランシスコ工科大学辺りがモデルなんでしょうが、制作総指揮を務めるジョン・ラセターに敬意を表して(笑)、ココは是非、彼の母校カリフォルニア芸術大学*1(カル・アーツ)の名を挙げたいです。

テクノロジーに振り回されるのではなく、それをクリエイティブに使いこなす真のプロの映像作家、しかも、自分の名声ではなく、心から献身して若き映像作家の卵たちに教える事の出来るリーダー  「映画の本当の作り方」アレキサンダー・マッケンドリック著より

1970年代のカル・アーツのパンフレットに書かれている初代映像学部長を務めたアレクサンダー・マッケンドリックへの惜しみない賛辞は、ディズニー社を追われ、ピクサー社を設立、数々の名作を制作し、再びディズニー社に迎えられたジョン・ラセターの姿に重ね合わせてみたいものだなぁ~と。実際、どんな人物か、全く知らないんですけどね、日本のアニメスタジオジブリが後継者への引き継ぎが上手くいかなかったのと比べるとねぇ。。

ジョン・ラセターは宮崎監督の熱烈なファンでも知られていますが、ベイマックスのチップが赤と緑なのは、「ナウシカ」に登場するオームの目の色(興奮すると赤くなり、沈静化すれば青くなる)への目配せかなと…。まぁ、割と分かり易い記号なので、無理やりじつけました(笑)。理屈は抜きに、本作は子供たちが、まず楽しむべき作品ですもの、野暮はいいません。そうそう、小さなお客さんたちに一番受けていたのが、ハイタッチ後の「バラバラ」です。子供たちの笑いのツボはよく分かりませぬ(笑)。
ハイタッチ、抱きしめる手、つないだ手…いくつもの手が最後にロケットパンチとなり、兄の想いが再び甦る「手」のモチーフの重ね合わせはお見事ですね。暴走するベイマックスを何とか止めようと皆が持てる力を振り絞るシーンも好き。

*1:ウォルト・ディズニーとロイ・ディズニーの多大な貢献によって設立されたカル・アーツの第一期生がジョン・ラセター