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この愛のために撃て(ネタバレ)/走る!お父さん

85分という上映時間が如実に語る、贅肉のない引き締まったアクション映画で、とても愉しめました。

善良な一市民と、長年悪に手を染めてきた殺し屋が、ひょんなことから共闘せざるを得ない状況に追い込まれる。本来なら決して交差することもなかった人間同士が起こす化学反応は、フレンチノワールの伝統を引き継ぎながらも、善と悪、それぞれの「思い」を全うに引き受ける覚悟の強靭さを見せてくれました。悪のもう一枚底の部分を国家権力の枠内に配置したのも、事件解決のカタルシスにすんなり誘導して貰えて心地よかったです。最近の悪は複雑ですからね、結構それだけでくたびれちゃう時があります。

プロットはサミュエルが務める病院と、警察、この二つの建物からどうやって出るか、あるいは入るのかをポイントにしたサスペンスを軸に地下鉄構内での大追跡劇を挟む、サンドイッチ構造(笑)ですよね。
見るからに人の良さそうなサミュエルと、ちょっと表情が読みにくいというか、何を考えているのか簡単には掴ませてくれない殺し屋サルテの間に信頼が築かれた瞬間の、警察腕章の授与式(笑)は良かった。
マッチョな刑事さんの部屋にある鉄アレイとか、妊婦に毛布を差し出す思いがけない優しさだとかも印象深かったですけど、サミュエルを追跡する女刑事さんがカッコ良い。ボーンシリーズを彷彿とさせるハードなアクションを、女優さんがきっちりこなしてます。さすが自由、平等、友愛がモットーのおフランス。男女差別はありません。で、この女刑事さんと妊婦さんが終盤、対峙するんですが、女同士、どちらも生む性であるがゆえの複雑な感情が絡んできますから、ちょっと先が読めずにドキドキしました。サミュエルの妻も、獲得した「母」の強さをきっちり示して、一方的に保護される側からの成長をみせてくれたし…。

警察内の権力構造に立ち向かう度に、眉間に深い皺を、一本、また一本と刻んできたであろう女刑事ファーブルさんの活躍、もっと見てみたかった。良い顔をした女優さんですね、できれば他の作品でもお目にかかりたい人です。刑事ヴェルネールの圧倒的な存在感もそうですが、見慣れたハリウッド映画の系統とは違う面構えの俳優さんが多くて、この点でも楽しめる作品です。