パージ(ネタバレ)/建国の父に血を捧げよ

レーガノミクスが齎した世界?

8月1日から公開になる『パージ・アナーキー』の前作『パージ』を観て来ました。ホント久々の映画なので、ちょっとワクワクしましたが…。
1年に1晩だけ殺人を含むすべての犯罪が合法となるアメリカが舞台。で、こんなトンデモ法が成立しちゃうアブナイ米国では、どうやら新しき「建国の父」の名の下、犯罪が激減しているらしい。
年に一度の血生臭いお祭りイベントが、民衆へのガス抜き政策だけではなく、経済的弱者やマイノリティを市民が狩り殺す、つまりは犯罪予備軍となるかも知れない貧困層を合法的に始末しちゃいましょうという、無茶苦茶な世界。
犯罪が激減した、見せかけの平和を享受している裕福層は、パージを通して為政者を褒め称える━保守化したアメリカを皮肉る政治的、社会的寓意に満ちた作品です。
『パージ』は粛清の意味なんでしょうね。

ジェームズ・サンディン(イーサン・ホーク)一家に逃げ込んだ一人の黒人青年を巡って右往左往する家族を通して見えてくるのは、家族第一で『パージ』の本質に無関心を装い目をそらし続けた妻と、思春期まっただ中の長女とそのBFを通して炙り出される、一見良識的な父親の潜在的偏見、助けを求める黒人青年に逡巡しながらも救いの手を差し伸べた長男といった具合に、たかだか50年ほど前まではアメリカで吹き荒れていた黒人差別を容易に連想させます。サンディン家を襲う白人集団はお面を付けて顔を隠してましたもん、KKKが頭から被る白い頭巾と同じですよね。


ホームセキュリティーシステムのコードがロナルドレーガン大統領と因縁のある数字が選択されていたり*1ゲーテッドコミュニティと、そこからは疎外されたマイノリティといった図式は、レーガノミクスにより、減税の恩恵を受けた裕福層と、福祉政策費の削減によって切り捨てられたマイノリティといった構図が見て取れます。
その上、ご丁寧にも、エンドクレジットのテロップで、この狂った社会を支えるシステムが何であるか━銃社会とその恐怖から身を守ろうとする市民が求める堅牢なセキュリティ━相反するものがマッチポンプ式に肥大化していった世界のなれの果てだと明確に言語化してしまってるんですよね、ココが本作のウィークポイントかも知れない。

多くのフォロワーを生んだジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」シリーズはいうまでもなく、ホラーやスリラー映画の源流には社会的視座が含まれることはままあります。ただ本作、政治的寓意が突出しているように思えるんですね、その分、ホラーやスリラーの映画的要素にパンチがない。大きな音で脅かしたり、背後にはりつくカメラや、監視カメラの映像等々、どれも見慣れた手あかのついた演出で、知的に構築された筈の政治的風刺が上手く混ざりあってくれないというか…。
ご近所のクッキーおばさんが登場早々怪しすぎて(笑)、この人がラスボスなの?ってすぐ思っちゃいますもの。
恐怖は外から齎されるのではなく、我々の身近に潜むもの。危険なのは「奴ら」=外部ではなく我々の側にある、安全な街=ゲーテッドコミュニティそのものが恐怖の根源(中産階級間のわずかな差異が生む妬み、嫉妬)とする視点も盛り込むのなら、もう少し暈してくれた方が良かったかも。。
ちっこい目をキョロキョロ動かし動揺するイーサンホークは上手いなぁ。こういう小市民的な父親像を演じさせたらピタリと嵌りますね。

*1:http://www.imdb.com/title/tt2184339/trivia?ref_=tt_trv_trv The alarm code that James Sandin enters into his home security system is 101382, this equates to the date 10/13/1982, the date of President Ronald Reagan's Address to the Nation on the Economy