リトル・ミス・サンシャイン(ネタバレ)/黄色いバスがゆく

義父の葬儀から一か月余りが経ちました。それなりの年齢になれば、出逢いよりもお別れの方が多くなる。当たり前なんですけどね、いいタイミングで本作を再見できて良かったです。

機能不全に陥った家族の再生の物語。作品中に登場するオンボロの黄色いミニバスが、そのものズバリ、家族を表象してます。この一風変わった家族の中でひときわ異彩を放つのがおじいちゃん。コカイン常習者でそれが原因で老人ホームを追い出された曲者。やることなすことが全て反体制的なんだけど、思想性なんかどこにもない(笑)。人生はエロだ!ってある意味、達観してるので分かり易いというか、こういうおじいちゃんは扱いやすいとさえ思えた。その分、デリカシーはゼロ。自殺未遂をした同性愛者のフランク(スティーブ・カレル)に面と向かってホモ呼ばわりする人ですからね。一家の大黒柱であるリチャード(グレッグ・キニア)は、アメリカ的な成功神話の端っこに何とか食らいつこうとはしているものの、振り落とされそうになってる夢追い人。なんだかよく分からないセミナーを開催して、だったら何故、彼自身が「成功」していないのかを疑問に思わない不思議な人。ニーチェに傾倒してる頭でっかちで、イタイ青春真っ最中のドウェイン(ポール・ダノ)も加わって、お母さんのトニ・コレットの苦労は、もう涙なしでは見られない(笑)。彼女がいなかったらこのお家、とっくに空中分解してますよ、きっと。

末娘オリーブの美少女コンテスト出場の為に、カリフォルニアまでの短い旅の間に起きる悲喜こもごもは、べたなんだけど、べたを承知で、そこからほんのわずか悪乗りし、はみ出すバランス感覚(←これが計算ずくに見えてかえって嫌らしいともいえるんですが)が素晴らしい。褒めてますよ、勿論。

家族という枠内に、異物として投入されるプルースト学者でインテリのフランクが惚れてた男の、まあなんというか絵に書いたような薄っぺらさ。日焼けした肌に映える白い歯を輝かせ、ムキムキの体型を強調する服を纏い、筋肉量と見事に反比例する脳みその軽さを披露してくれます。で、彼の新しい愛人が同じプルースト研究者で、フランクの失恋の痛手はそう簡単には癒えない。恋敵を悪しざまに非難しようにも、自分に似すぎていて、鏡に向かって殴り合いをするようなもので、そのまま自分に跳ね返ってしまう。おまけに似た者同士でも、相手の方がほんの少しだけ上回ってるんですよね。差異のゲームの蟻地獄に足を取られて、もう、自意識はズタズタに…。

オリーブが参加した美少女コンテストも毒々しい。わが娘を優勝させるために必死の親たちは、アメリカの成功神話に置き去りにされた階級の最後のあがきみたいなのが浮かび上がるんですよ。中産階級だけではなく、その下の階層も熱心に参加してるんですね。異様に肥満した母親とか、革ジャン姿の父親だとかが映される。そこに司会者のノッペリした営業スマイルにひどい照明が重なり、出場する子供たちの機械じみた表情と相まって神経を逆なでする映像が続きます。でもね、ミスコン優勝者の人間性や、鼻持ちならない審査員のおばさんにささやかな反抗をするスタッフのエピソードを加えて、毒々しさを中和する側にちゃんと振れて着地させる、これだけでポストモダンだ(笑)。

バラバラだった家族が、祖父の死、父と息子の挫折、母親が娘を取り戻すエピソード(オリーブちゃん、荷物みたいに置き去りにされた…爆)、オリーブちゃんを守るためにインテリ弟のヤケクソの暴走で皆が一つになり、ラストで力を合わせて黄色いバスを押し順に飛び乗っていく、とっても映画的な運動で核心をズバリ魅せてくれる、もう嫌らしいくらいに上手いです。順に動いてるバスに飛び乗っていく画の心地よさは、素直に褒めたいですね。黄色いバスだとスクールバスを連想してしまいますが、人生という旅に相乗りする家族は、実年齢も、培った経験も関係ない、乗り合わせる全ての人間が等しく子供と同じなんでしょう。運転手もそっちゅう交代してますし、乗ってる面子だって入れ替わる。遺体を蔽っていた白い布を見つめる一瞬の間合いに、亡きおじいちゃんへの想いが溢れていて、ココも大好きなシーンになりました。