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記憶の棘(ネタバレ)/窓辺には、もう小鳥は来ない


■いつかまた、別の人生で君と逢いたい
イマジカBSで鑑賞。公開時(2006)のキャッチコピーは“愛してる─何度生まれ変わっても”なんですね、うーん、これってミスリードだなあ。死んだ夫の生まれ変わりだと主張する、着色してないウインナみたいな丸々した指を持つ少年−リインカーネーション(転生)はプロット上のギミックでしょうね、多分。。ショーン少年(キャメロン・ブライト)はアナ(ニコール・キッドマン)を愛した(少なくとも最後には)と信じているには間違いないでしょうけど、彼、アナの死んだ夫として彼女を愛してしまったわけじゃないんですよね。寧ろ、アナからの愛を受けながら彼女を裏切っていた夫を否定している。だからバスルームでのアナとの会話“君を愛しているから、僕はショーンじゃない”−クララとも関係していたショーンと僕は別人、だって僕はあなた「だけ」を愛しているから−と、ココで愛の告白やってるんだもの。
アナの夫の死亡した場所を何故、少年が知っているかについては、ニューヨークの高級アパートで家庭教師をしている父親のお供で何度も尋ねるうちにドアマンと親しくなり、彼から聞き出したんじゃないかしら?ヒエラルキーの上位者であるアナの家族たちには、ドアマンがどれだけ情報を握っているかまでは思いが及ばないのでしょう。。全ては少年がクララの跡をついて行ったことからはじまったんですよね(彼女は招待されるよう仕組んだと話してましたが)。このクララを演じたアン・ヘッシュがとても良かったです。アナの圧倒的な美しさの影で、彼女の夫を愛し続けてきた女。どれだけ嫉妬したかは想像に難くないですが、面白かったのは、彼女もアナと同じく亡きショーンとの記憶に呪縛されてる事。アナが書いた夫へのラブレターやカード類を大切にしまいこんでましたよね。これがショーンの彼女への愛の証だと信じようとしていた女(それが何故、愛の証になるのかは理解できない。アンとの同一化幻想なら分かるけど)は、少年によって彼女の大切な思い出を改竄される事が許せなかった。アナも知らない本当のショーンは私だけのもの、それを壊されてなるものかって、この人の気持ち、わからなくはないです。でもね、クララの夫ってショーンの花婿付添い人をやったクリフォードでしょう?婚約パーティで、手紙を証拠にショーンとの関係を暴露したら、アナに復讐できてもクリフォードとは離婚間違いなしでしょうから、彼女があれほど迷ったのも頷けます。良い人そうですよね、クリフォードさん。クララにとっては、男として愛したのはショーンであっても、人として信頼できたのはクリフォードだったんでしょうね。それにしても、しんどい関係だなぁ。。
少年の登場によって、死んだはずの人間が亡霊のように回帰してくる−過去の記憶に囚われた人達は、過去の記憶に縛られているが故に、ショーンの死後に築かれた関係性までもが揺らいでしまう。アナの婚約者は会ったこともない男の亡霊に嫉妬し、少年の母親は息子を奪われる不安の中で揺れ動き、ある意味、アナの鏡像的位置にあるクララも過去の記憶に繋がれたままでいる。時計の針を逆さに戻すような事はよくないですね、たとえそれが愛のためであっても…。アナの母親の、“私はショーンが嫌いだった“というセリフの一言だけで、この人なら娘婿の裏切りに気づいていてもおかしくないと思わせる静かな揺るぎない迫力、さすがに大女優ローレン・バコールさん、すっかり皺だらけになっちゃいましたけど、その皺さえ美しいです。他にも娘の話、都合よく聞いてないところがありましたよね、というかそのフリが出来る人なのでしょう。アナの姉が生んだ子供を見て“この子が、ショーンの生まれ変わりかも”とまでさらりとの言ってのけます(だって赤ちゃんは女の子なんだもの)。皮肉めいた物言いだけど、いたってまっとうな判断ができる人なんですよね、俄然、憧れるわ(笑)。ミスディレクションに振り回されずに、喪失による欠如を人はどう埋めようとするのかを見て欲しい作品ですね。