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さすらいの女神たち(ネタバレ)/白い船に乗り、女神達は舞い降りた

■あるがままの自分の体で表現する

表現者としてそれぞれが個を確立してるからでもあるのでしょうが「ニューバーレスク」の女たちは、みな仲良しです。バックステージものにつきものの、共演者同志の陰湿な虐め、火花散る嫉妬とは全く無縁。軽く三十路を超えてしまった女でも、この世界ではまだまだ未熟なヒヨッコ扱い。美容整形で人工的に保たれた薄っぺらい若さやスリムなボディを茶化すかのような存在感のある肢体、従来の審美的感覚からは外れた規格外の肉体を観客の前に曝すことで彼女たちは現実世界で縛られるさまざまな要因から自己を解放しているんですね。星条旗(世界最大の軍事力を有する大国アメリカ)を纏った女が、ドル札(基軸通貨)を貪り食い、豊満な肢体を揺らし踊るコケティッシュな姿にはシニカルな社会批判の視線が込められているし、客室乗務員の制服を無断で拝借してしまうあまり手癖のよろしくないダンサーは、自らの手を戯画化して魅せる(公式サイトによると、このパフォーマンスはジュリー・アトラス・ミュズのボーイフレンドの母親に捧げたもので、腕に障害を持つ彼女への愛のあるオマージュだそうです)。リハーサルや楽屋裏で彼女たちを見守るジョアキム目線が、華やかなショービス世界の見えざる一面を映し出し、ステージからステージへ渡り歩く浮草暮らしの厳しさは、自身で荷物を運び出す(女たちの赤いキャリーバッグ越しに鮮やかな赤毛が見える面白い画がありました)余裕の無さに如実に表れますが、彼女たちは決して人生の愉しみまでも手放したりはしない。せっかく女に生まれたんだもの、キッチュでも、安っぽくても構わない、綺麗なモノに囲まれ、バッチリお化粧して、コロコロとよく笑い、観光もし、時には男を賞味する。列車の揺れまで利用してましたからね(笑)。豊かな胸の先につけまつ毛用のグルーで房飾りをつけ踊っていた女が、その糊を剥がす時にもキャッキャとはしゃぎ(←これ、やってみたいです。房飾りを振り回す方じゃなくて、グルーを剥がす方)、宅配ピザに女たちがうわぁーっとが群がる。いいですねー、こういう女達って…。社会の倫理や男性目線から押し付けられた価値を諧謔やユーモアで包んでさらりと乗り越えていくしなやかさがあります。ニューバーレスクが多くの女性に支持されている理由もここにあるのでしょう。

■人生の荷おろし

トラブルを起こし全てを捨て逃げるようにアメリカに渡った、かつては敏腕プロデューサーだったジョアキム(マチュー・アマルリック)は、ショーの成功によって晴れてパリに凱旋するつもりだったのが肝心のパリ公演がブッキング出来ずに窮地に追い込まれます。そこに別れた子供達との再会も加わって、彼は不誠実を重ねた「過去」と、煩わしさから逃走した「未来」(子供)との挟み撃ち状態に。その間にもしっかりナンパするのがフランスの男性らしいと言えばそうなんだけど、これも一種の現実逃避ですよね。過去と未来に挟まれ、「今、ここ」できりきり舞いしている男の情けなさや愛おしさを、マチューさまがドンピシャに演じてます。実生活ならこういう男の人はめんどくさくて嫌だけど、虚構世界で無責任に眺めてるのは大好き(笑)。で、彼のパートと対置されてるのがバーレスクダンサーのミミだと思うんです。他愛のないおしゃべりで始まった子供の話題だけで涙が出てしまう、孤独の影を引きずっている女。暴力(アジア系結婚披露での喧嘩沙汰)と彼女を庇おうとする若い男との肉体の接触で誘発された唐突で衝動的な情事は、彼女の渇きを癒してはくれず、独り寝の侘しさから一座の母親的存在のダンサーのベッドで微睡む。ジョアキムも友人との大ゲンカの後に彼と同じベッドで束の間の眠りを取ってます。道中立ち寄ったスーパーで、ニューバーレスクの舞台を観たレジ係の女性との一悶着(まったく化粧っ気のない顔と胸にシミが浮き出た女性の回春騒動には、ありきたりな日常に閉塞していた女が舞台を観た解放感ですっかり舞い上がってしまったからなのでしょうが、プロのダンサーであるミミはそのありきたりで凡庸な幸福を捨ててきたから、今の位置に自身の脚で立っているいるわけで)をきっかけに急接近したふたりでしたけど、ミミがハンドルを握る(運転手の交代)傍らで、虚勢や見栄を捨て去り、女の傍らにいる幸福な「ただの男」のポジションに心から充足している彼の横顔の色っぽさにホレボレしました。ずるいです、こんな顔されたら、私は間違いなくグラッときます(笑)。

■無人のホテル

ジョアキムとミミが肌を重ねたのは無人のホテル−このシークエンスは素晴らしいと思います。バカンス客でごった返す夏の賑わいも、子供たちの歓声も全て遠い過去に押し流され、未来に向かってサラサラと音もなく砂がこぼれる様にゆっくりと朽ちていく場所。「過去」に足を取られ「未来」には壁が立ちふさがり、じたばたと足掻く他なかった男と、その見っともなさを傍らで見ていた女(彼女もTV出演までしていた華やかな「過去」を捨てきれていないモヤモヤと、ダンサーとしての「未来」に不安や焦りを抱えてました)が束の間、疲れた心と体を横たえるのに、これほどふさわしい場所はないでしょう。カーテンから差し込む日の光、互いを求める言葉には詩人の魂が宿り、瞳からは一筋の涙がこぼれる。慈しむような時の流れに、ささくれだった心がゆっくりと溶けていく…。マチューさまが涙を流すのはやりすぎじゃないの?って突っ込みたくなりましたが(笑)。やがて別行動だった、他のメンバーが合流。破れたガラス越しに見える女たちの登場シーン、良いですね。彼女たちのヒールからはお約束通りどっさりと砂が零れ落ち、素肌にコートを羽織っただけのミミに目ざとく気づいた女たちはその間に何が起きたのかを察して、大人の対応をしてました。ジョアキム以外、基本的に女たちの方が遥かに大人ですもの。彼は客室乗務員を束ねるパイロット同様、自分が彼女たちを統率してる気でいましたけど。。
水のないタイル張のプールに響くスケボーの音の何とも言えないもの悲しい響き。女たちのにぎやかなおしゃべりは高い天井の反響によって煌めき、侘しいホテルにも彼女たちを喜ばせるシャンパンだけは残ってます。マイクを握ったジョアキムは’It's show time!’と再び舞台の幕開けを宣言し、この白昼夢のようなホテルで果たすことの出来なかった夢の舞台=パリ公演を行うのでしょうね。
ラストでジョアキムがカセットで流した曲のタイトルが結局わからずじまいでした…それが残念です。。歌詞を知りたいんですけどね。