ヤング≒アダルト(ネタバレ)/片づけられない女の断捨離願望

■エクステ+ネイル=私は無敵

脚本家ディアブロ・コーディが描くディテールはさすがに面白いです。ドライとは違ってウェットフードの匂いはきついから、ベランダに犬を出してそこで食事を与える。潔癖症の女性ならやりそうなことですが、そうじゃない事は、あの散らかり放題の部屋を見れば一目瞭然。要するに、片づけが面倒なだけ。“全員子持ちです”とメンバー紹介するママさんバンドの、仕事も子育ても両立させながらこんなに私たちがんばってますわよオーラの嫌ったらしさ。離婚した娘の元夫の写真を飾り続ける母親のエゴ。一夜限りの情事のためにひっかけた男の話を、せめて表面上だけでも取り繕って真摯に聞いているフリだけでもすりゃいいのに、鼻からバカにした態度。生誕パーティにメイビスを招待した理由を“彼女が可哀そうだったから”とこともなげにのたまう、ベスの自覚なき残酷さのすざまじい破壊力。これじゃあ宣戦布告の狼煙ですよね(笑)。過去への旅のお供に、青春時代のイコン=ティーンエイジ・ファンクラブのテープを引っ張り出してくるのは分からなくはないけど、なんでこんなテープ、残してるんでしょうかねえ…一度は結婚したんだから、何故、その時に処分しておかなかったのか不思議です。こういう女性の方が多いのかなぁ。私の周りにはあまりいませんが…。ゴーストライターで一時は少しばかり売れたもの、シリーズは打ち切りに。バツイチで子供なし。37歳の崖っぷち女が、持つものと持たざる者、高校時代のヒエラルキーが反転してしまった現実を、主観のみで美化された過去を武器にぶっ壊しにかかるトラウマ大告白劇にまで進展していく様子は、イタ過ぎて笑えないです。
元カレを色仕掛けで落そうと、自分を磨き上げていく過程がよいですね。ネイルサロンで爪を磨き上げ、バスルームで無駄毛の手入れ。抜毛癖でできたハゲをエクステで隠し、胸元のあいたドレスでバッチリ決める。髪の手入れ(ハゲ隠し)+マニキュアは高校時代からの習慣だったようで、いい女モードになきゃならない時には、彼女、この二つのアイテムで武装するんです。色仕掛けではバディを落とせないと知ったメイビスは、妖艶な美女からハイソで清楚な若妻に変身。コンビのローヒール、シルクのワンピースにカーディガン、髪はアップにして(ハゲ隠しになる)真珠のイヤリングでアクセサリーは控えめに。マニキュアもナチュナルなものに変更。正統派美人シャーリーズ・セロンだから可能な、見事な変身です。ベースメイクだけの、女ならあんまり見られたくない工程も、ちゃんと見せてくれてますね。この辺りの畳み掛けるような編集のテンポの良さは、心地いい。工場見学なんかの製造工程を見てるのと同じ(笑)。この彼女の変身でラカンの有名なテーゼ「他者の欲望を欲望する」を思い出しました。彼女の武装は常に他者の欲望が主導している−他者からの視線を意識し、その返答と承認が彼女の欲望=精神的充足へと繋がっているので、着飾れば着飾るほど、その行為が彼女にとっての精神安定剤みたいに見えてしまいます。オフ時のイコンはキティのTシャツなんて、落差の強調にしてはちょっと安直すぎないか?と私のようなおばさんには思えてしまうのですが、どうなんでしょう、同世代には“あーっ、それって分かる感”のあるアイコンなんでしょうか。

■ヌーブラ+パンスト=私は負け犬

若妻ファッションで武装したメイビスは、未精算のままだった過去の請求書をぶら下げてその返済を迫ります。私、ここでドン引きしました。ナッチさんの字幕のせいもあるんでしょうが、大昔のメロドラマみたいなセリフだったので。メイビスが物書きという設定だったので、彼女が書いている小説を入れ子構造に、現実と小説の虚と実をリンクさせるためのかなぁと思ったんですが、そこも不十分でした。ディアブロ・コーディの脚本でいっつも引っかかってしまうのがこういう所なんです。現代的なセリフ、ディテールの面白さはあるものの、物語が大きく動くシーンを支える心理的基盤に、女性ならではの自己愛が顔を覗かせるのが気になるんですよね。子供を授かった幸せにどっぷりつかってるベスに対抗するのに、えー!本当にそれでいいのかって。。。狭い人間関係のみで生まれる位相や差異や軋轢に終始してしてしまうので、表現はよくないのですが(ディアブロ・コーディファンの方がもし読まれてたら、ごめんなさい。先にお詫びします)念入りなリサーチを基に時代性を適度に記号として取り入れながら、嫁と姑、女ばかりの姉妹が織りなす騒動を量産してきた橋田壽賀子ドラマと大して変わらないのでは?と思ってしまいます。評価されてる脚本家さんですけど、この作風なら、私はもういいかな…。
マットの妹からの応援を受け、エネルギー充填されたメイビスは、壊れたミニクーパーに乗って過去と決別します。妹の申し出を断ったのは、自己チュー女の本領発揮ではなくて、妹が田舎を出たいと訴える姿に過去の自分−妊娠し、バディと一緒に田舎を出たかったメイビス−が重なったからだと思ってます。マットの妹は多分、30歳過ぎでしょう?もう大人なんだから田舎を飛び出したければ一人でできます。いつまでも甘えてんじゃないわよ、私だって一人で飛び出したんだからね。その勇気も持てないあんたには田舎がお似合いって事なんじゃないかと。メイビスの覚醒はこの瞬間でしょう。こういう所は好きなんですが(笑)。
もう一点、メイビスとマットのやり取りは好きでした。ヌーブラとパンストだけのボロボロの姿を曝した、かつてのプロムクィーンを抱くマットの脚の手術痕は痛々しかったです。ヘクトクライムによる暴力で下半身が不自由になったマットには性交渉も厳しいんですよね、それでもメイビスを受け止めようとした彼の優しさには大拍手!