きっと、うまくいく(ネタバレ)/ニワトリは卵の行く末を知らない

■ミリがセンチになる

混んでると聞いていたので、上映時間の一時間前には整理券ゲットしようと、いつもより早めに家を出たのに、窓口には既に長蛇の列。評判通りの、とても楽しい作品でした。上映中には何度も大笑いが起き、泣かせの場面ではあちこちからすすり泣きが聞こえたりで、こんなにも観客の一体感を感じる映画は久しぶりです。デート・ムービーにも良いのじゃないでしょうか…。
ボリウッド映画のお約束、唐突な(笑)ダンスシーンもそんなにしつこくないので、インド映画に慣れていない私でも全く大丈夫でした。経済成長の著しいインドの超名門大学で巻き起こるドタバタには、カーストが現存する身分制度や格差社会ーインドの固有性を除けば、作品で扱われているのはとても普遍的なテーマで、作品のトーンは真逆のベクトルなのに学園ドラマのパートはピーター・ウィアー監督の『いまを、生きる』をちょっと思い出しました。学歴社会で抑圧される青年たち。どちらの作品も子供の将来に期待をかける実の親と、名門大学(『いまを、生きる』の方は、アイビーリーグ入学を目指すプレップスクールが舞台ですが)の学長、ふたりの「父」との葛藤が描かれてます。従来のカーストから自由な新職種(エンジニア)に、カーストからの解放を求める人たちの希望が集中する結果、理系の就職口を巡る「新しい」ヒエラルキーが誕生してしまうんですね。50倍もの超難関大学に合格しても、就職まで熾烈な競争が続く。ハリウッドでリメイクが決まってるそうですが、ハーヴァードやM.I.Tが作品舞台となっても十分通用します。中流家庭と貧困層を代表するファランとラージューの対比もマイノリティ間の格差を描くのには最適。でも、現代の時間軸でリメイクするのは少々厳しいかなぁと…。だって、名門大学の学長に当然いる筈の秘書すら登場しないんです(笑)。
旧態然とした社会システムを一気に変えることは出来なくても、自身を縛っているそれぞれの檻に対する「気づき」によって対抗、成長していくドラマの間に、これでもか!とギャグが挟まれていて、結果、170分の上映時間となる(笑)。でもこの無駄ともいえるコメディパートをすっきり整理してしまったら、きっと寂しいだろうなぁ。。伏線は結構分かり易くて、10年後(現在のパート)での展開はほぼ読めてしまいます。それでも溢れるほどの多幸感に包まれるのには、あの少々しつこい天然志向のギャグ無しでは不可能でしょうね。ランチョーを演じたアーミル・カーンは1965年生まれなんですね、驚きました!トビー・マグワイアそっくりなんですけど…。